夢駆ける馬ドリーマー   (米・ドリームワークス:ジョン・ゲイティンズ 監督)


Photo 実話に基づいた、感動の物語(タイトルにも"Inspired by A True Story"と表記されている)。

 調教師のベン(カート・ラッセル)が育てた競争馬、ソーニャドール(スペイン語で"夢見る人"の意だそうだ)が、競馬で出走中、足を骨折してしまう。通常は安楽死させる所だが、オーナーの傲慢な態度への反撥と娘ケール(ダコタ・ファニング)の願いから、ベンはソーニャを引き取り治療することとなる。骨折した馬は普通は回復しても歩ける程度だそうだ。
 だが、ソーニャは奇跡的な回復を見せ、さまざまな障害も乗り越え、遂にケールが夢見る最高のクラシック・レース、ブリーダーズ・カップに出場することになる…。

 私はこういう、“一度敗者の烙印を押された者が、夢をあきらめず、必死の努力の末に奇跡的な勝利を収めるという話に弱い。アメリカ人もそういう話が好きなのだろう、最近でも、やはり競馬の実話「シービスケット」とか35歳でメジャー・リーグに挑戦する「オールド・ルーキー」、ボクシングの「シンデレラマン」などが作られている。

 本作は、そうした一連の実話感動作品の系列に入るものの、どちらかと言えば気軽に楽しめるウエルメイドな娯楽作品に仕上がっている。ダコタちゃんの可愛らしい演技による所も大きいが 、“女の子が競走馬を育ててクラシック・レースで優勝する”というお話Photoは、実は丁度60年前の1945年、エリザベス・テイラー主演の「緑園の天使」(クラレンス・ブラウン監督)という映画でも描かれている。アメリカ人には想い出深い作品だろうから、この作品からも多少インスパイアされている可能性もあると私は見る。

 監督も兼任したジョン・ゲイティンズの脚本がなかなか丁寧に書かれている。元になった実話にもよるのだろうが、人物の背景、キャラクターも過去の人生も含めてきっちり描き分けられているところはうまい。

 中でも、騎手を夢見ながら、落馬事故の後遺症で調教師手伝いに甘んじていたマノリン(フレディ・ロドリゲス)が、最後にソーニャの騎手に抜擢され、見事勝利を収めるエピソードも感動的である。
 これはまた、夢を捨てなかった若者、マノリン自身の復活の物語でもあるのである。彼に心情を寄せて観ると、もっと感動出来るかも知れない。

 祖父役を演じたクリス・クリストファーソンが、風格ある演技でいい味を出している。しかしこの人、たった33年前には「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」(サム・ペキンパー監督)で主演のビリー・ザ・キッドを演じていた。歳を早く取り過ぎないかい?(笑)。

 こういう映画は安心して観ていられる。決して傑作ではないし、ベストテンに入る秀作でもない。
 しかしこうした、実際にどん底から這い上がって栄光を掴んだ人(や動物)がいた…というお話は、現実に挫けそうになっている人、あるいはかつて挫折した人が観たら、とても勇気付けられ、もう一度夢にチャレンジしてみようという気になる場合だってある。そういう意味では、こういうタイプの映画は作られる意義があるし、多くの人に観て貰いたい作品である(興行的には思わしくないようで残念である)。


 さて、もう一つお楽しみがある。

 この映画には、ラストで “THE END” の文字がクレジットされている。
 最近の映画ではほとんど見かけなくなったが、昔の映画には必ず物語が終わると、この文字(エンドマークと言う)が出たものである。

 これが出ると、“ああ、終わったんだな”とホッとしたものである。30年くらい前まではほとんどの映画にはエンドマークがあった。日本では“”または“”と出た。フランス映画では“FIN”である。ドイツでは……う〜ん忘れた(笑)。ついでに、香港映画では“劇終”である。こちらは今でも表記される事が多い。

 子供の頃からエンドマークに慣れていた私は、これが出なくなった頃、なんとなくモヤモヤした気分になった。ヘンな例えだが、全部便が出ないうちにトイレを出た気分である(笑)。いきなり、「えっ。 これで終わり?」てな唐突な終わり方をする映画が出始めたのもその頃ではなかったか。

 だから、本作でエンドマークが出た時は、なんだかホッとした。気分がいいものである。

 そのエンドマークに続いて、カーテンコールのように出演者の顔と名前と役名を出してくれたのも楽しい。時たまこういう事をやってくれる映画があるが、これも余韻を楽しむうえでいい事である。それに便利なのは、あの役者、名前はなんといったかな…という時に覚えられるので有難い。

 この2つがあったおかげで、とても爽やかな気分で映画館を出られた。

 出来たら、もっともっといろんな映画で復活して欲しいですね。採点はうんと甘くしておきましょう。        (