ポセイドン (米:ウォルフガング・ペーターゼン 監督)
'72年に製作され、大ヒットしてパニック映画ブームの火付け役となった秀作「ポセイドン・アドベンチャー」の34年ぶりのリメイク。試写会で見参。
前作はリアルタイムで観ている。とても面白く、かつ感動した。ポール・ギャリコの原作がとても良く出来ており、これを「夜の大捜査線」(ノーマン・ジュイソン監督)でアカデミー賞を取った名手スターリング・シリファントが脚色、ロナルド・ニームが監督した。
原作が良くて(登場人物もストーリーも原作通り)、脚本も良く出来ているのだから面白いはずである。
キャラクター造形が秀逸。祈るよりも行動せよ、と人々を引っ張って行く牧師ジーン・ハックマン、その牧師に何かと突っかかる警官アーネスト・ボーグナイン、人のいい行商人レッド・バトンズ、太ってる割りに水泳の得意な夫人シェリー・ウィンターズ…と並ぶ4人の主要人物が実は全員アカデミー賞受賞者。ついでに特殊効果担当が「ミクロの決死圏」や「猿の惑星」、「トラ!トラ!トラ!」など映画史に残るSFXを手掛けてアカデミー賞を4度も受賞しているL・B・アボット(CGのない時代です)と、これだけスタッフ、俳優が充実しているパニック映画も例がない。とにかく何度観ても面白いし感動させられる。
――と、長々とオリジナルの紹介をしたのは、リメイクだというのに前作のいい所がまったく生かされていないからである。
そもそも、ポール・ギャリコの原作とは、登場人物が全然異なる。ま、変えるのはいいとしても、オリジナルにあった、それぞれの人物の内面的な掘り下げ、対立や葛藤もなく、矢継早に次から次に災難が襲いかかるだけで、感動することも勇気付けられることもない。
SFXだけはさすがにI.L.Mによる最新のCG技術が駆使され、見応えがある。
が、いくらCGが見事でも、肝心のドラマが薄っぺらいのでは感動も、見終わった後の充実感もない。
冒頭、水中から出たカメラがポセイドン号の周囲をグルリと回りジョギングする人物を捕らえるまでをワンカットで描いたCGに驚かされるが、
だからそれがどうした・・・と言いたくなるくらい、別になくてもどうでもいいシーンである。
なんだか、CG技術者の、自己満足の為だけに作られたような感じを受けてしまうが、そんな所に手間と時間をかけるくらいなら、脚本作りにもっと手間と時間をかけなさい…と言いたくなる。
まるで、ユニバーサル・スタジオのアトラクションを体験しているようなもので、見ている間はワーキャー、ハラドキだが、観終わったらきれいさっぱり忘れて、後に何も残らない(そう言えば元消防士だというカート・ラッセルは、USJにある「バックドラフト」の元となった映画に主演してましたな)。
まあ、そういったアトラクションを楽しみたい方なら十分堪能できるだろう。前作を知らなければそれなりに面白いかも知れない。
しかし、映画はやはり感動を与えられ、観終わった後々までも心に残り続けるものであって欲しい。SFXだけしか印象に残らないようでは困るのである。
オリジナルは、逆さになった船内のビジュアル効果も秀逸だった。天井に固定されたテーブルにぶら下がった人間がシャンデリアに向かって墜落して行く…という文字通り逆転発想がお見事。トイレの便器が逆さになっているシーンも印象的。
本作では、そうした視覚的な斬新さがない。まあ、あったとしても二番煎じになってしまうだろうが…。
まあ、前作がいかに素晴らしい出来だったかを再認識出来た事が収穫だった…と言えばキツいだろうか。 ()