アンジェラ   (仏:リュック・ベッソン 監督)

 

Photo リュック・ベッソンは私のお気に入り監督の一人(但しかつては)。

 「グラン・ブルー<グレート・ブルー完全版>(88)は中でも一番好き。神秘的で荘厳な美しさに満ちていた。何度見直してもうっとりする。

 その後の「ニキータ」(90)「レオン」(94)にも魅了された。

 しかし、面白かったのはそこまで。以降の監督作品は、観るたびにガッカリ度が強まっている(もっとハッキリ言えば、「グラン・ブルー」を頂点にどんどんレベルダウンしているように感じる)。

 製作・脚本担当作に至っては、どれもイマイチの作品ばかり。中でも「ダンサー」「WASABI」「ダニー・ザ・ドッグ」は酷かった。

 本作は、そのベッソン6年ぶりの監督作。文句はあれど毎回観に行ってしまうのがファンの惚れた弱みである(今度こそ頼むよぉ)。

 タイトルの原題はAngel-A。よくある名前のアンジェラ(ランズベリーとか、「燃えよドラゴン」でブルース・リーの妹を演じたアンジェラ・マオなんかもいたなぁ。古いか(笑))を分解すると、エンジェル(天使)+Aになる。そこから思いついてストーリーを考案したのかも知れない。しかし残念ながら、作品そのものはやはり凡庸な出来だった。

 そもそも、ヤクザに金を借りまくって、返済の当ても立たず自殺しようとするだらしない主人公アンドレ(ジャメル・ドゥブーズ)には共感できないし、その彼を何故か助ける天使アンジェラ(リー・ラスムッセン)も大柄で娼婦の恰好で男から金を巻き上げたりするので、こちらも感情移入しにくい。

 その上、ストーリーもキャラクター設定もどこかで聞いたような話だし、映像はどこかで見たようなものばかり。

 例えば、超能力を持った女がダメ男を好きになる…という話は、日本のラブコメ「うる星やつら」でお馴染みだし(ついでながら同時期のラブコメ「The かぼちゃワイン」大柄な女とチビ男が主人公である)、さして目新しい話ではない。

 パトリス・ルコント監督「橋の上の娘」は、モノクロ映像に、セーヌにかかる橋から身投げしようとする女が出て来る。モノクロに天使とくれば、ヴィム・ヴェンダース監督「ベルリン・天使の詩」があった。

 ・・・とまあ、たちどころに似たイメージが浮かぶ事からして、いかにイージーな発想であるかが分かる。

 そもそも、“金策に困り果てた主人公が橋から投身自殺しようとすると、それより先に飛び込んだ人がいて、助け上げたらそれは天使だった…”というメインプロットが、フランク・キャプラ監督の名作「素晴らしき哉、人生!」とまったく同じなのだから困ってしまう。
 どういうつもりなのだろうか。パロディともオマージュとも違うと思うが…。

 アンジェラが、ヤクザたちを一発でぶっ飛ばしたり、男たちを次々トイレに誘い金を巻き上げるといったコミカル(と言うよりマンガ的)なシーンも全体のバランスを崩している。

 とにかく、「グラン・ブルー」や「ニキータ」にあったスタイリッシュな美学、凛とした人間讃歌は影を潜め、ガサツなだけの作品になっている。

 ベッソン、いったいどうしちゃったんでしょうか。 またもやガッカリな出来であった。    (