V フォー・ヴェンデッタ   (ワーナー:ジェイムズ・マクティーグ 監督)

 

Photo 近未来の、ファシズムに支配された独裁国家と化したイギリスを舞台に、政府に立ち向かう謎のヒーロー、笑い仮面・“V”の活躍を描いたアクション。

 プロデューサーの一人がジョエル・シルバー、脚本がウォシャウスキー兄弟と、「マトリックス」の製作・監督トリオが参加している為、それをウリにしているようだが、「マトリックス」とは何の関係もない(当然SFでもない)。展開もやや重苦しい。

 冒頭、400年前に国王を暗殺しようとして捕まり処刑されたガイ・フォークスの実話が紹介され、“V”はこのガイ・フォークスになぞらえ、政府転覆を狙って次々と殺人、爆破テロを実行して行く。…とこう書けば、なにやらテロ礼賛の反社会的作品か…と思ってしまうだろう。

 そんな風に考えたら、この映画は楽しめない。で、視点を変えてみる。

 実は、時の政府(又は権力者)に立ち向かう仮面のヒーロー…というパターンは、昔からたくさんある。
 有名なのが、戦前から作られている、メキシコを舞台とした怪傑ゾロ」(戦前は「奇傑ゾロ」)、日本では、幕末を舞台とした怪傑黒頭巾」(高垣眸原作)、仮面ではないがサングラスにバンダナの怪傑ハリマオ」(全部“怪傑”がつく(笑))などがある。

  “V”は、むしろこうした“仮面の正義のヒーロー”の系譜に連なる主人公…と考えれば面白いのである。スタイルとしては、黒づくめに黒マント、黒い(何というのか、シルクハットを短くしたような頂上が平らな)帽子といういでたちが、ゾロを思わせる(剣先でポスターにシュシュッとVのサインをするところもそっくり)。

 さらに、ホルスターに入れた二挺拳銃…ならぬ6挺短剣を目にも留まらぬ早業であやつり、敵を倒すあたりは、二挺拳銃のおじさん、怪傑黒頭巾を彷彿とさせる(こちらも全身黒づくめ)。
 黒頭巾シリーズを思い起こすと、いくつかの作品ではラストで敵の本拠に爆薬を仕掛け、大爆破を行う…というシーンまであるし、倒幕グループのメンバーが危機に陥った時、どこからともなく黒頭巾が風のように現われ、可憐なヒロイン(松島トモ子や丘さとみ等)を助けたりするわけだから、この辺もよく似ている。

 日本のアニメを数多く見ているウォシャウスキー兄弟のことだから、きっと「怪傑黒頭巾」も研究しているに違いない。・・・なあんて、半分冗談だが(笑)、こんなことを考えながら観たら、結構楽しめる作品なのである。

 こうした作品は、いずれも政府や権力者側が悪で、それに立ち向かう主人公が正義のヒーローなのである。だからといって、これらをテロリスト礼賛映画とは誰も言わない。
 だから本作も、政治的な意味合いを深く考えずに、エンタティンメントとして気楽に観ればいいのである(原作自体がコミックだし)。

ヒーロー映画ではないが、アルジェリア独立運動の実話に基づいた秀作「アルジェの戦い」(66・ジロ・ポンテコルボ監督)では、政府によって革命戦士の主人公が殺された後、無数の名も無き群集が広場に押し寄せ、政府軍を圧倒する…という幕切れだったが、このあたりも本作のラストとよく似ている。

 ついでに、この“V”を演じているのが、「マトリックス」のエージェント・スミス役、ヒューゴ・ウィーヴィングなのだが、ラストで無数の“V”の笑い仮面が登場するあたり、「マトリックス・リローデッド」でも無数の同じ顔のウィーヴィングがネオに飛びかかるシーンがあったな…と思い出す人もいるだろう。

 まあそんなわけで、いろんな古い映画を観ていると、また違った楽しみ方も出来るのである。いかがですかな。

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