ナニー・マクフィーの魔法のステッキ   (英:カーク・ジョーンズ 監督)

 

Photo イギリスの作家、クリスチアナ・ブランドの書いた児童書「ふしぎなマチルダばあや」を、女優のエマ・トンプソンが脚色、主演した、いかにもイギリス映画らしいユーモアに溢れた楽しい作品。

 葬儀社につとめる、妻を亡くしたブラウン氏(コリン・ファース)には七人のやんちゃガキがいる。雇ったナニー(家庭教師兼乳母みたいなものか)に悪いいたずらをしては辞めさせるので、ナニーの来手がない。ほとほと困ったブラウン氏の前に、マクフィーと名乗る不思議なナニーが現われ、魔法で、子供たちに少しづつ礼儀作法、そして感謝の気持ちを教えて行く…。

 ディズニーの秀作ミュージカル「メリー・ポピンズ」を連想させるストーリーだが、異なるのは、マクフィーの容貌、なんとイボと出っ歯にダンゴ鼻に反った眉と、とんでもなく不細工な顔で、しかも無表情で笑わない。だから最初は不気味で、悪い魔法使いのような印象を与える。使う魔法も地味で奇跡を起こすわけでもない。

 しかし、子供たちがいろんな人生の難問を経験し、マクフィーの助力のおかげでそれらを乗り越え次第に自立して行くにつれ、マクフィーの顔からイボや出っ歯が取れ、綺麗になって行く。そして、ラストにおいて、素敵な奇跡が訪れ、もうマクフィーの力も必要でなくなった時、マクフィーは静かにいずこともなく去って行く。

 子供たちが可愛らしいし、いろいろ笑えるギャグも多くて結構楽しい。特に、父のお見合いをぶっ壊そうと子供たちがたくらむいたずらが、ミミズのサンドやら、ヒキガエルの入ったポットとややエゲツないし、それを隠そうとブラウン氏が相手の女性にタックルするのを、ブラウン氏が発情したのかと勘違いするあたりは大笑いである。ラストにはサイレントのドタバタコメディによく登場するパイ投げも派手にやってくれる。そう言えば、期限までに花嫁を探さなければいけないという設定はキートンの「セブン・チャンス」を連想させるし…、ところどころ、そうした古き良き時代のスラップスティック・コメディへのオマージュを私は感じた。ローレル・ハ−ディなどのサイレント・コメディを覚えている方なら余計楽しめるでしょう。

 子供向けに宣伝されているが、大人が見ても楽しいし、いろいろ考えさせてくれる。
 子供の教育はどうしたらいいのか…、甘やかしでも、厳しい躾けでもない、子供たちに考えさせ、自分たちで解決する方向に導いてあげる、マクフィーのやり方が一つの答なのかも知れない。

 エマ・トンプソンの奇妙なメイクと演技も楽しい。イギリスの個性派俳優の共演も見どころ。そして、懐かしや「ジェシカおばさんの事件簿」(個人的には「クリスタル殺人事件」のミス・マープル役が好きなのですが)の大ベテラン女優、アンジェラ・ランズベリーの元気な快(怪?)演はとくと見ておくべきでしょう。       (