THE 有頂天ホテル    (東宝:三谷 幸喜 監督)

 売れっ子脚本家、三谷幸喜の監督3作目の作品。大晦日のカウントダウン・パーティを控えた一流ホテル内のてんやわんやを、多彩な登場人物を巧妙に配して描いたコメディ。
 とにかく、登場人物が凄く多い。ホテルの従業員だけでも副支配人、接客係、客室整備係、ベルボーイ、それに(そういう係がいることを初めて知った)筆耕係などがおり、泊り客も種々雑多、トラブルを撒き散らす芸人、マスコミから逃げている疑惑の国会議員や、追い出されてもしぶとく潜り込むコールガール、等々…。それらを絶妙に交通整理し、しかも物語は現実時間と一致して進行する。そうした込み入った物語を、ダレることなくテンポよくまとめた演出と脚本はさすがにお見事である。興行的にも大ヒットしているようで、まずはめでたいことである。
 しかし、内容には不満が残る。笑わせようとするあまり、現実にはあり得ない展開が目立つからである。例えば、顔にドーランを塗ったままでホテル内を逃げ回る支配人(伊東四朗)。ホテル内は知り尽くしているはずだろうに。逃げ込むにしても、洗面所に入って携帯掛ければ済む話(石鹸だってある)。あれではただのバカである。客室係の松たか子が制服の上から客のコートや宝石を着用するだけでも問題なのに、そのまま客になりすましてホテルのロビーで芝居するに至っては引いてしまった。副支配人の新堂(役所広司)が、別れた妻に見栄を張ってマン・オブ・ザ・イヤーのゲストになりすますあたりもちょっと無理があるし、またあんまり面白くもない。新米従業員ならともかく、副支配人があそこまでウソをつけば問題になるよ。そんなこんなでゴチャゴチャしてて、本来クライマックスとなるべき、売れない歌手(YOU)がパーティで歌って喝采を浴びるシーンが意外に盛り上がらない。「グランド・ホテル」の出演者の名をつけたスィートルームについても、よっぽどの古い映画ファンでないと何のことやら分からないだろう。これはちょっと懲りすぎ。
 まあ観ている間は楽しいし、いろいろお遊びもあるので観て損はないと思う。個人的には、アヒルの腹話術師役で、旧日活映画ファンには懐かしい榎木兵衛さんが元気な姿を見せてくれているのが嬉しかった。だが、監督1作目の「ラヂオの時間」の面白さには遥かに及ばない。本作は、単に騒々しいだけで観終わっても心に残らない…と言えば厳しすぎるだろうか。少なくともあの1作目には、全員で力を合わせて計画を成し遂げる高揚感と至福感が漲っていたと思う。三谷監督には、あの頃の初々しく、ひたむきで誠実な演出ぶりを思い起こして欲しいと願う。         (