キング・コング    (ユニヴァーサル:ピーター・ジャクソン 監督)

 映画史上に残るSF怪獣ものの元祖とも言える「キング・コング」オリジナル版('33年製作)を、私は小学生の頃映画館で観ている。別項(20世紀ベスト100)にも書いているが、あまりのコワさに震え上がり、強烈なインパクトを受けた。以後、テレビ放映、再上映、ビデオを含め何度も繰り返し観た。そんなわけで、'76年のリメイク作(ジョン・ギラーミン監督)は、SFXはまあまあだったものの、現代が舞台という事もあってまるでつまらなかった(その続編「キングコング2」は、話したくもない超駄作)。恐らく誰が作っても、オリジナルを超えるものは出来ないだろうと思っていた。
 さて、その私にとって思い入れ深い「キング・コング」をピーター・ジャクソンが最新のVFXを使ってリメイクすると聞いて、上記のような理由で期待よりも不安の方が勝っていた。それでも、9歳の時オリジナル版を観て映画監督を志したというジャクソンの事だから、あるいは…と考え、早速観に行った。
 結論から言うと、凄く面白かった。オリジナル版に対するリスペクト精神に溢れ、時代設定もオリジナルと同じ1933年。登場人物の名前も、物語経過もほとんど同じ。オリジナルを、丁寧に、ただしVFXだけは最新のCG技術を駆使して迫力満点、かつリアルに作り直した…と言えるかも知れない(CGは、「ジュラシック・パーク」の頃よりさらに進化している)。上映時間は3時間を超えているが、それはオリジナル版が描きたかったのに、予算や技術面の問題から断念した部分を描こうとしたからだろう(ただし、冗長とは思わなかったが、なくてもいい部分もあった)。出来れば、本作を観る前に、オリジナル版のビデオを観て予習しておくことをお奨めする。本作がさらに楽しめること請け合いである。
以下ネタバレがありますので、未見の方はご注意ください。
 そして、この映画で一番感動した部分。―それは、コングがアン(ナオミ・ワッツ)をさらって島の一番高い場所に登り、沈み行く夕陽をアンと共に眺めるシーンである。その美しさにアンが「きれい…」とつぶやく。コングは、この美しさをアンに見せようとしたのであり、ここでアンとコングは心が通い合うのである。―このシーンが、ラストでなぜコングがエンパイア・ステート・ビルに登るのか…という(オリジナル版で感じた)疑問への解答になっているのである。夜明けのエンパイア・ステート・ビルの頂上で、登る朝日の美しさにやはりアンが、「美しい」と歓喜の声を上げる。確かに、我々観客が見てもこのシーンの朝日の美しさは感動的である。あるいはコングは、人間の住む都会の只中で、いずれ殺される事を悟り、せめて最後にアンに地上で一番高い場所で朝日の美しさを見せてあげたかったのかも知れない。―やがて、複葉機の機銃掃射によって、コングはアンを見つめつつ、落下して行く。まさにこれは究極の、美女と野獣のラブストーリーではないか。このラストで、私は泣いてしまった。オリジナル版では泣けなかったのに…である。ラストシーンに関しては、この作品はオリジナル版を超えたと言って差し支えないだろう。ただその分、オリジナル版でも有名な、カール・デナムがラストにつぶやく「美女が野獣を倒したのだ」のセリフは本作には似つかわしくない。旧作のあのセリフは、コングがいくらアンの事を思っても、コングの一方的な片思い(アンはコングから逃げ回るだけ)であったからこそ生きた言葉なのである。       (

(付記)映画の最初の方で、カール・デナムと助手とが、出演女優の候補をリストアップするシーンで次のような掛け合いがある。デナムがメエ・ウエストなど当時の有名女優の名を挙げた後、デナム「フェイ・レイはどうだ」助手「彼女はRKO映画に出ています」デナム「すると監督はクーパーだな」。これには笑った。オリジナル版のファンなら先刻承知の通り、オリジナル版のアン・ダロウ役がフェイ・レイ、同作の監督はメリアン・C・クーパー、配給はRKO映画である。また、メイン・タイトルのデザインもオリジナル版そっくり…という凝りようである。