カーテンコール    (佐々部 清 監督)

 昭和30年代中期の映画全盛期から、やがてテレビに押されて映画が斜陽になって行く頃を舞台に、上映の合間を歌と喋りで繋ぐ幕間芸人という存在にスポットを当てた人情ドラマ。監督は「半落ち」、「チルソクの夏」などの佳作を連発し好調の佐々部清。当時の風俗や映画館の様子も再現されていると聞いていたので、これは大いに期待して封切と同時に観に行ったのだが…。
 まず、当時公開されていた映画がふんだんに画面に登場する。「座頭市物語」(1作目)、「キューポラのある街」、「いつでも夢を」、「下町の太陽」、「網走番外地」、そして「続・男はつらいよ」…。大衆に支持されたプログラムピクチャー中心の作品チョイスがファンの心をくすぐる。おまけに主題歌がなんども歌われるし、「いつでも夢を」は作品のキーとして効果的に使用されている。この映画の為に再現された、ポスターカラーで描かれた絵看板もいい。前述作品以外に、「悪名」、「ひばり・チエミの弥次喜多」、「昭和残侠伝」、「緋牡丹博徒」…。それらを見ているだけでも、子供時代から青春時代にかけて毎週のように通ったわが地元の映画館(閉館されて今は既にない)の思い出が脳裏をかけめぐり、懐かしさで胸が一杯になった。まさに宣伝文句にある“日本版ニュー・シネマ・パラダイス”とでも言うべき、オールド映画ファンの心を揺さぶる素敵なシーンの連続であった。
 そういう事であれば、当然ながら本年のベスト作品として絶賛したいところであるはずなのだが…。う〜ん、微妙である。
以下はややネタバレです。そのつもりでお読みください。

 お話としては、昭和30年代から現在までの(ラストでは閉館を迎える)ある地方映画館の歴史、映画衰退とともに消えた幕間芸人の消息、それを探す雑誌編集者の主人公・香織(伊藤歩)の旅…。これだけでも十分過ぎるくらいストーリー展開には事欠かない。―なのに、映画はさらに幕間芸人・安川修平(藤井隆)と、別れた娘との父娘の葛藤、香織と父の話、さらには、唐突に、この幕間芸人・修平が韓国出身者だったというエピソードまで登場する。
 これではちょっと話を広げ過ぎである。ために前半のノスタルジックな感動が、後半ではかなりそがれてしまった。無論ラストではそれなりの感動シーンを用意しているので、つまらないことはないのだが、いったい監督はこの映画で何を描きたかったのか―映画館の盛衰か、幕間芸人の人生模様か、親子の情愛か、それとも朝鮮人差別か―、そのどれも中途半端で、焦点がボケてしまった感は否めない。それに、修平の幕間芸を描く回想シーンでは、彼が韓国人であったことには全く触れていない。これなら、修平を韓国人にしない方がもっとスッキリしたのではないか。「チルソクの夏」はそのテーマが鮮明で、それゆえ感動を呼んだわけなのだが…。
 もう一つの問題は、藤井隆演じる安川の幕間芸が、正直言ってヘタな点である。舞台に立つ芸人である以上、やはりプロであるべきで、少なくともギターはもっと上手でないといけない。我々観客が見ても、“うまいなぁ”と思わせるものが必要で、それ故、「優れた才能を持ちながらも、映画の衰退ゆえに表舞台から消えざるを得なかった」その運命に観客が涙することとなるはずであった。あのギター、歌、喋りでは、素人に毛が生えた程度にしか見えず、よって香織がクビのリスクを背負ってまで追いかける必然性が希薄になってしまった。全国オーディションを行ってでも、上手な芸人を(演技は素人でもいいから)探すべきであった。
 とまあ、問題点はあるが、いつもながら丁寧でしっとりとした佐々部演出は見応えがあり、隅々にまで気配りの行き届いた昭和30年代のセット、小道具、時代考証も見どころ十分。倍賞千恵子の歌う「下町の太陽」の歌にはウルッと来てしまった。また、映画館の盛衰をずっと見て来た劇場従業員に扮した藤村志保さんの元気な姿が見られるのもファンとしては嬉しい。映画ファンなら観ておいて損はないだろう。ただし私の採点は、ストーリー部分は★★★、映画館の歴史部分は★★★★★、平均して
)。ちょっと苦しいところである。