リンダ リンダ リンダ    (山下 敦弘 監督)

 「ばかのハコ船」「リアリズムの宿」などで俄かに注目を集める、若干28歳の若手監督、山下敦弘が手がけた青春映画の快作。
 高校の文化祭に出場することになった女子高校生バンド5人組。猛練習を重ねて来たのにギター担当の子が指に怪我をし、ボーカルの子まで抜け、バンドは空中分解。しかしあきらめないリーダーの恵(香椎由宇)はキーボードからギターに転じ、残ったドラムの響子(前田亜季)、ベースの望(関根史織)に加え、通りがかりの韓国からの留学生・ソン(ペ・ドゥナ)を無理やり引っ張り込み、本番までの3日間にブルーハーツの曲を徹夜で練習し、そして遂に晴舞台の日がやって来た・・・。

 こう書けば、いかにも「青春デンデケデケデケ」にも似た高校生たちの元気溌剌としたハジける青春映画のように思える…のだが、長編デビュー作「どんてん生活」以来、どことなく頼りないダメ男たちの日常を好んで取り上げて来た山下監督らしく、全体的に自信なげで目的を掴みかねているような高校生たちのモタモタした青春を、独特の“ユルい”タッチで描いている。韓国留学生で日本語もたどたどしいソンは、最初はおっかなびっくり、「なんでこんなことに…」とでも言いたい顔をしていたのが、練習するうちに次第に日本語の歌の魅力にとりつかれて行く。その変化を「ほえる犬は噛まない」等のペ・ドゥナが絶妙に演じている。文化祭当日も、練習疲れで全員寝てしまい、どしゃ降りの雨の中をヨタヨタ、すってんコロリと転び、ドロンコになりながら会場に駆けつける。最後までそうしたカッコよくない、トボけた演出が一貫されている。
 しかし、ギリギリでやっと到着した会場で、ソンのボーカルによる「リンダ リンダ」が始まると画面は一転、観客の高校生たちと一体となった躍動感が炸裂する。そこに至るまでの彼女たちや、彼女たちを取り巻く高校生たちの動きが所在なげでヨタヨタしていた分、我々観客にもより一層の至福感、高揚感が伝わって来る。ここは感動的で、いいトシをした私でもウルッと来てしまった。そこまで計算していたのかと思いたくなるほど、その演出効果は満点である。狙っていたとしたら凄い。猛特訓で、実際に演奏している彼女たちの(
ただし関根史織はプロのベーシスト)演奏もお見事。
 青春時代とは、カッコいいものではない。失敗したり、迷ったり、落ち込んだり、とまどったり…でも何かにひたむきに打ち込んだり…そうした経験を経て、少女たちは大人へと成長して行くのである。まさに今の時代を象徴するリアリズム感溢れる青春映画であると言えよう。これぞ山下タッチ。その演出が体質に合わない人もいるかも知れないが、私には見事にハマッてしまった。若者たちだけでなく、あらゆる(高校生活を送ったことのある)世代の人たちにも観て欲しい、これは本年屈指の青春映画の傑作である。