フライ、ダディ、フライ  (東映:成島 出 監督)

 映画賞を総ナメした「GO」の原作者、金城一紀がオリジナル・シナリオを書き、「油断大敵」で監督に進出した成島出が監督2作目として演出した爽やかな感動のドラマ。

 普通の冴えない中年サラリーマン、鈴木一(堤真一)の一人娘・遥がある日高校生・石原(須藤元気)に殴られ重傷を負う。だが政治家を父に持つ石原は反省の様子もなくケロッとしている。怒りにかられた鈴木は石原に復讐しようとするが、高校ボクシング・チャンピオンの石原には勝てるはずもない。そんな時、鈴木はふとした事で知り合った高校生で喧嘩の達人、朴舜臣(岡田准一)から特訓を受け、やがて石原と父の威信を賭けて対決することとなる。

 普通のよくあるパターンと異なり、年下の若者が年長者を鍛える…という逆発想がユニークである。それまで、なんとなく無気力な人生を送って来た鈴木が、舜臣の特訓を受けているうちに、次第に男としてのプライドを獲得して行くプロセスが小気味良い。感動的なのは、夜の最終バスと競争しようと思い立ち、毎日バスを追いかけているうちに、バスの乗客たち(いずれも中年落ちこぼれサラリーマン。この配役がやはり「Shall We ダンス?」で似た役を演じていた田口浩正、徳井優というのが楽しい)から熱い声援を受け、遂にある日、バスとの競争に勝つ…というエピソード。本筋とはあまり関係ないのだが、この辺り、中年世代にとっては胸が熱くなリ、勇気付けられるいい話である。

 鈴木と舜臣の関係が、やがて擬似的な父と子の関係になって行くあたりの演出もうまい。堤、岡田共に好演。岡田はテレビの「タイガー&ドラゴン」でもいい味を出していた。今後が楽しみな俳優である。ラストは予定調和とは言え、スカッと爽快な気分になる。舜臣は最後に、「飛べ、おっさん、飛べ」と叫ぶ(これが題名の意味)のだが、ダディには「父親」という意味がある事を知っていれば、舜臣の鈴木に対する感情もこの題名に込められている事が分かる。

 荒唐無稽と言えばそれまでだが、トボけた味わいと、バスとの競争に見るひたむきさとを巧みにブレンドした演出によって、ひと夏の爽やかな夢の映画として楽しめる作品となった。これは、平凡な人生に夢を失くしかけている中高年世代の方に送る、人生の応援歌なのである。無論、若い世代が観ても十分楽しい。中年青春・冒険映画の快作として、お奨めである。