四日間の奇蹟   (東映:佐々部 清 監督)

 第1回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、浅倉卓弥の同名小説を、「チルソクの夏」「半落ち」などの佳作でこの所好調の佐々部清監督により映画化。

 どんな映画かと言うと、あからさまに言って、ある日突然、二人の心と身体が入れ替わってしまう・・・という、古くは大林宣彦監督「転校生」、最近では東野圭吾・原作で滝田洋二郎監督による「秘密」、アニメでは「あたしンち」、洋画でもジェイミー・リー・カーティス主演「フォーチュン・クッキー」など、やたら作られていてパターンとしては目新しいものではない。題材としては荒唐無稽、あり得ないお話で、それでいて展開はごく生真面目…という難しい内容であるので、要は、小説なら語り口のうまさ、映画なら演出の妙―が勝負どころとなる。原作が「秘密」との類似性を指摘されながらも大賞を受賞したのは、その端正かつ静謐な筆致が評価されたからである。従って、本作を映画化するには、映画作家の側にもかなりの演出力が要求される。その点、デビュー作「陽はまた昇る」以来、一貫して丁寧で腰の据わった演出力で評価されて来た佐々部清監督なら適任と言えるだろう。心配なのは、佐々部監督はこれまでいずれも、実話に想を得たり、社会問題を扱ったりのリアルな作品ばかり演出して来たわけで、こうしたSFファンタジーは不得手ではないのか…という点である。しかし映画を観てその不安はけし飛んだ。これは見事なファンタジーの秀作になっていた。
 不慮のアクシデントでピアニストとしての夢を断たれた敬輔(吉岡秀隆)は、その事件で両親を失った自閉症の少女・千織(新人・尾高杏奈)を育て、やがて彼女のピアニストとしての素質を発掘し、各地を巡演して彼女の為のコンサートを開いている。やがて二人は下関・角島の老人療養センターにやって来る。ここにはかつて学生時代、密かに敬輔に好意を抱いていた真理子(石田ゆり子)が働いている。真理子は突然の落雷事故によって重症を負うが、その時かばった千織と真理子の心が入れ替わってしまう。ここから、千織の身体を借りた真理子と敬輔との、短くもせつない四日間の奇蹟の物語が始まることとなる。
 この物語は、それぞれに心に傷を負っている真理子と敬輔の心の葛藤を丁寧に描き、生きるとは、人を愛するとは―というテーマに正面から取り組んだ、心と体のドラマである。とりわけ、死の恐怖に怯えながらも、次第にピュアな気持ちを取り戻し、敬輔に想いを伝え、多くの人たちに別れを告げて天国に旅立つまでの真理子の心の旅は胸をうつ。このラストシーンは泣ける。まさに心が癒される素敵なファンタジーである。さすが佐々部監督、お見事である。
 屈折した心情を抱く敬輔を演じた吉岡がうまい。千織を演じた尾高杏奈はオーディションで選ばれた新人だが、新人離れした好演に舌を巻く。身体は千織なのに、真理子になり切って、彼女の気持ちを吐露するシーンなど、ベテランでも難しい。本年度の新人賞を総ナメすることだろう。佐々部監督の地元、下関の角島という舞台もどこか現実離れした空間で、テーマに相応しい(灯台が効果的)。
 荒唐無稽なお話であっても、人それぞれの想いを丁寧に描けば感動を与える事が出来るのである(大林宣彦監督作品ともその点では通じるものがある)。佐々部監督の新たな挑戦に拍手を送りたい。