ローレライ   (東宝:樋口 真嗣 監督)

 福井晴敏の評判を呼んだベストセラー小説の映画化。原作題名は「終戦のローレライ」。「このミステリーがすごい」2003年度ベスト2位。他、第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞を受賞。
 上下巻合わせて1,000ベージを超える大長編だが、それでも面白い!。私も一気に読んだ。ラストのクライマックスでは、歓喜雀躍した。こんなに読んでて興奮する小説は久しぶりである。読み終えてすぐに、「これは是非映画化して欲しい」と望んだ。が、同時に、「今の日本映画界に、こんなにスケールの大きな作品を映画化する元気はない」とも思った。現実に、佐々木譲原作の大戦秘話3部作(「ベルリン飛行指令」、「エトロフ発緊急電」、「ストックホルムの密使」)などは面白いし、映像化に向いていると思うのだが、どこも映画化しなかった。やはり製作費がかかり過ぎるのが難点である。「エトロフ発―」はNHK-BSの製作によりテレビで放映されたが、連合艦隊がヒトカップ湾に終結するシーンはチャチな特撮で興ざめであった。
 そんなわけで、本作が映画化されると聞いてとても喜んだ(聞けば、初めから映画化を前提として構想された小説だとか)。予算的にはちょっと厳しい感じではあるが、監督が平成「ガメラ」シリーズの特撮を手がけた樋口真嗣であるだけに、期待するものがあった。いろいろと賛否両論があるようだが、私にはとても面白かった。
 第二次大戦末期、米軍による東京への原爆投下計画を阻止する目的で、絹見艦長(役所広司)以下の特命部隊が、ドイツから譲り受けたU−ボートを改装した潜水艦・イ507に乗り組み、敵の包囲網をかいくぐり、さまざまな危機を艦長の優れた判断で乗り越え、最後は遂に原爆搭載機を撃墜する…と、こう書くだけでもワクワクする。とにかく着想がいい。役者もいい(軍医役の国村隼や銀座のケーキ職人だったという掌砲長役のピエール瀧など、いい味を出している)。
 この映画のプロットを簡単に述べるなら、“密命を帯びたチームが、敵陣深く潜入し、さまざまな困難を乗り越えて遂に敵の秘密兵器(又は作戦)を阻止し、目的を遂行するまでを描く”という、まさに昔からよくある、ジャック・ヒギンズやアリステア・マクリーンなどに代表される冒険小説の王道を行くパターンである。特にマクリーン原作の「ナバロンの要塞」とは共通点も多い。多少参考にした形跡は伺える(ナバロンの砲台と、原爆を置き換えたらそっくりになる)。原作が目利きの、特に冒険小説愛好家の人たちから絶賛されたのも、前記の冒険小説パターンを巧みに取り入れている点を評価されたと考えれば頷けるのである。さらには、福井晴敏作品全体に共通する“守るに値する国家は存在するのか”というテーマもしっかりと盛り込まれているので、見終わっても、ハリウッド製のSFXが派手なだけの超大作よりもずっと心に響くのである。
 確かに、上映時間が足りないせいもあって、細かい点が描き切れていないし、他にもいくつか難点があるが、日本映画が最も苦手とする、スケール大きな冒険アクション・エンタティンメントを見応えのある作品に仕上げただけでも成功と言える。本作が足がかりとなって、今後もこうした冒険小説の映画化が定着するなら、本作が作られた意義は十分あったと言えるだろう。