阿修羅城の瞳   (松竹:滝田 洋二郎 監督)

 ヒットした劇団☆新感線の舞台劇の映画化。舞台でも主役を演じた市川染五郎が映画でも同じ役に扮し、女優として好調の宮沢りえを相手役に配し、樋口可南子、小日向文世、内藤剛志、蛍雪次朗…と役者も豪華。
 文化文政の、鬼が跋扈する時代、江戸の町を舞台に、鬼退治で名を馳せた病葉出門(市川染五郎−“わくらばいずも”と読む)が、やがてつばき(宮沢りえ)という女と出会い、互いに惹かれ合うが、彼女の正体は恋すると鬼になる阿修羅王だった…という悲恋物語。設定を聞くと、面白そうな内容だ―と期待したのだが…。
 冒頭のアクション・シーンは悪くない。「陰陽師」シリーズでもCGとワイヤー・スタントを生かしたアクション演出で実績のある滝田監督だけに、うってつけと思ったのだが、――本来盛り上がる後半が、逆にどんどんボルテージが落ちて行き、も一つしまらない出来になっていた。
 問題なのは、書き割りのセットであっても、観客の想像力でイメージを補完できる舞台と違って、映画はイメージがそのまま映像として表現されてしまう。従って、余程カネと手間をかけてビジュアル化しないと、却ってチャチに見えてしまうのである。目が光るだけの鬼たちが、少しも鬼に見えず、おどろおどろしさがない点からして欠点が露呈している。大川端のセットや、クライマックスの阿修羅城の造形もいかにも舞台的で映画的イマジネーションが乏しいし、リアルな芝居小屋のロケ(香川県琴平町にある、実在の金丸座を使用)と違和感があり過ぎる。まあそこまでは我慢するとしても、一番いけないのは、阿修羅王に変身したつばきが、宮沢りえそのもので少しも阿修羅らしく見えない点である。アクションもヘタで、あれでは出門に勝てるとは思えない。従って肝心なシーンが盛り上がらない。これはチャン・ツィイーくらいのアクションが出来る女優でないと務まらないだろう(滝田演出も問題あり)。宮沢りえももう30歳過ぎ。アップになると小ジワが目立つ。オーラを発する絶世の美女…としては貫禄が不足する(宮沢りえはいい役者だしうまいのだが、この種の映画には合わないということ)。ここは舞台のイメージを捨て、例えば「さくや 妖怪伝」(原口智生監督)の松阪慶子扮する土蜘蛛くらいのCG特撮を駆使した壮大なスケール感が欲しかったところである。
 いろいろ難点を挙げたが、見どころを挙げれば、市川染五郎の演技。さすが歌舞伎役者である。立居振る舞い、見得を切る仕草、いずれも惚れ惚れするうまさで大向こうから声を掛けたくなる。だから余計宮沢りえが見劣りするのである(舞台でも評判だった天海祐希が演じたらどうだっただろうか)。あと脇では、鶴屋南北を演じた小日向文世が味のある演技でうまい。
 それにしても、深作欣二が健在だったなら、彼に演出させればもっとスカッとした快作になったかも知れない(「魔界転生」「忠臣蔵外伝・四谷怪談」を想起せよ)。つくづくケレン味とアクション演出に優れた監督の不在が痛い。