真夜中の弥次さん喜多さん   (アスミック・エース:宮藤 官九郎 監督)

 最近、脚本家として売れまくっている宮藤官九郎が、初のメガホンを取った監督デビュー作。原作は、これもシュールなギャグで有名なしりあがり寿のマンガ(「弥次喜多 in DEEP」ほか)。なにしろホモで、しかも喜多さんは薬物中毒と言う設定からしてぶっ飛んでいる。この原作を、「木更津キャッツアイ」や「ゼブラーマン」などのこれまたぶっ飛んだ脚本を書いた宮藤が監督するというのだから、並みの作品が出来上がるはずがない。で、完成した映画は予想通り(?)ハチャメチャな怪(快?)作になっていた。
 薬物に浸り切っている喜多さん(中村七之助)を救う為に、弥次さん(長瀬智也)が喜多さんを連れてお伊勢参りに出発する…という設定は原作通りだが、ラップに乗せて江戸の町中で踊リ出すあたりは序の口、いきなりハーレー・ダビッドソンのオートバイ(星条旗をあしらったデザインからして「イージー・ライダー」をパロッているのは瞭然)で高速道路をぶっ飛ばすあたりから、もう独特のクドカン・ワールド全開の世界に入ってしまっている。ここで、ついて行けない人は降りてください―と宣言しているようなもので、その代わり、ハマる人にはハマるのである。同じお金出すならハマらにゃソンソン、どっぷりクドカン・ワールドを楽しむのがこの映画の正しい観かたである。シュールなハチャメチャさから言えば、鈴木清順作品をよりアナーキーにした…と言えば判り易いか(余計判らなくなったかも(笑))。
 で、私自身は、こういう世界は好きであるので楽しめた。そして、ただハチャメチャなだけでなく、弥次さん喜多さんの、男同士の熱い愛情(不健全でなく)、現世とあの世を行き来する不思議な死生観(この辺りは寺山修司の世界を思わせる)も漂わせ、独特の人間観察映画にもなっているのである。また、弥次さんの妻、お初(小池栄子)の謎の死の原因を探るミステリーとしての味付けもあり、いろんな要素が詰まっている点で、これは見直す度に新しい楽しみ方も発見出来る作品でもあると言えよう。
 俳優としては、長瀬智也が意外と好演。「てやんでえ」というセリフを連発し、イキのいい江戸っ子らしく、生き生きと動いている。多くのゲスト出演も楽しい(七之助の父親、中村勘九郎がアーサー王に扮して珍演しているところも必見)。
 褒めるばかりでもいけないので、難点も挙げておく。まず上映時間が長い(2時間4分)。この内容なら1時間半程度に収めるべきである。後半がややダレて眠気を催した。ギャグも、ベタでモタれるところが散見される(竹内力のクサい演技は合っていない)。巨大な荒川良々も意味不明。何より、コメディ作品にしては人の死ぬシーンがリアル過ぎる。谷岡ヤスジなみのギャグをかまして欲しかった(と言っても若い人は知らないだろうが)。―そうした無駄な部分をカットするなり整理したら、もっとスッキリした作品になっただろう。しかしデビュー作としてはまず合格点。次回作が楽しみである。