Ray(レイ) (ユニヴァーサル:ティラー・ハックフォード 監督)
R&Bの天才シンガー、レイ・チャールズの半生を描いた伝記映画の秀作。
レイ・チャールズは私も大好きなミュージシャン。昔買ったLPベスト・アルバムは今も大切にしているし、CDも持っている。コンサートの録画ビデオも持っている。彼の歌は、聴けば聴くほどますます味が出てくるスルメのようなもので、何度聴いても飽きない。従って、彼の生涯を描いた映画が作られたと聞いて、封切を心待ちにしていた。そして観終わって、とても感動した。まず、レイを演じたジェイミー・フォックスが素晴らしい。レイの演奏シーンはテレビなどで何度も見ているが、その風貌も演奏シーンも、まさにレイに生き写し。細かいクセや、体を左右に振る仕草までそっくり。どう観ても本人である。多分アカデミー主演男優賞は間違いないだろう。
映画は、18歳の時にシアトルに旅立ち、ミュージシャンとしてステップを上り詰める姿と、失明するまでの少年時代のエピソードを並行して描き、彼の人生に母親の力が大きかった事や、人種差別に反対して故郷ジョージア州から締め出されたりしながらも、次々と既存の価値観を打ち破り、音楽界に革命を起こして来た彼の人生をあます所なく描く。
しかし、この映画のもう一つ素晴らしい点は、生きる為にはしたたかに、時には仲間を切り捨てたりする非情な側面や、ドラッグに溺れたり、妻がありながらバック・コーラスの女性と浮気したり…といった、レイのマイナス面もそのまま描いている点で、普通ならレイが亡くなって相当時間が経ってから映画化するものだ。ところが、この映画はまだレイが存命中にに企画され、レイに脚本も読んでもらったのだそうだ。すると、レイはそうしたマイナス部分も含めて、すべて真実を描いて欲しいと頼んだそうである。いやはや凄い人である。普通なら、触れられたくない部分だろうに…。やがてレイは、麻薬中毒を克服し、妻の元に戻り、その後もトップスターとして、昨年73歳で亡くなるまで音楽界に君臨することとなる。感動的なのは、後年、彼を締め出したジョージア州が、彼に謝罪し、名曲「わが心のジョージア」を州歌にした…というエピソードで、彼の偉大さに時代が屈服したという事なのだろう。
黒人である事、盲目になった事…二つのハンデを背負いながら、素晴らしい音楽を生み出し、人種も、言葉の壁も越えてはるか日本の私たちまでも感動させてくれた天才ミュージシャン、レイ・チャールズ…。映画を観終えて、私は以前よりもっとレイ・チャールズが好きになった。綺麗ごとだけでない、真実の人間レイ・チャールズを描いた、これは素晴らしい秀作である。必見!
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