ネバーランド   (ミラマックス:マーク・フォスター 監督)

 あの名作、「ピーター・パン」誕生の秘話を描いた、感動の傑作。早くも、本年度ベスト作品が登場した。
 主人公は劇作家のジェームズ・M・バリ(ジョニー・デップ)。「ピーター・パン」の原作者として名前は知っていたが、どんな人物なのかは全く知らなかった。映画は、実話に即してはいるが、かなり自由な創作部分も交えているとの事である。
 劇作家バリは、自分の書いた戯曲が不評で落ち込んでいる時、公園で4人の子供を抱えた未亡人デイヴィス(「タイタニック」のケイト・ウィンスレット)の一家と知り合う。妻ともうまく行かず、創作活動も行き詰まっていたバリは、この家族と過ごす時だけ、つかの間の心の安らぎを得、やがて子供たちの生活ぶりにヒントを得て、大人になりたくない子供たちを描いた「ピーター・パン」を書き上げて行くこととなる。…映画を観て判って来るのは、バリ自身が子供のような心を持ち、ネバーランドを空想する、ピーター・パンなのだという事である。特に子供たちのうち、父の死以後、心を閉ざしたかのような三男のピーターとの交流が重要な鍵となる。何故なら、ピーターこそがバリの分身でもあり、バリの子供時代そのものだからである。
 監督のマーク・フォスターは、ハル・ベリーにアカデミー主演賞を取らせた「チョコレート」で絶賛されたが、本作でも見事な手腕を発揮する。素晴らしいのは、「ピーター・パン」の上演が大成功を収めた後、死期の迫ったデイヴィスに、彼女の自宅で「ピーター・パン」を上演して見せてあげるシーン。狭い邸宅が、いつの間にか広大なネバーランドになり、デイヴィスが歓喜の表情を浮かべてその景色に溶け込んで行く幻想的なシーンは感動的で涙が溢れる。「信じれば夢は現実になる」という「ピーター・パン」のテーマを思い起こさせる、映画的な至福の瞬間でもあった。フォスターの演出は、例えばバリが自分の部屋に入ろうとドアを開けた時、その向こうに一瞬緑の草原が広がる…といった、鈴木清順を思わせるシュールなケレン味も取り混ぜ、なかなかのテクニシャンである。
 ラストはさらに感動的である。心を閉ざしていたピーターが、母の死を経て、ようやくバリが求め続けたネバーランドの意味を理解し、初めてバリに心を開いて行く。ピーターを演じた少年の演技が素晴らしい。無論バリを演じたジョニー・デップも絶妙の名演。ディズニー・アニメでもお馴染みの「ピーター・パン」に感動した人なら、誰もが感動出来る、これはとても心温まる素敵な秀作である。