五線譜のラブレター DE-LOVELYMGM=20世紀フォックス:アーウィン・ウィンクラー 監督)

 数々の名曲を世に送り出した作曲家、コール・ポーターの伝記映画。音楽家の伝記映画と言えば一時は盛んに作られていた(ジョージ・ガーシュイン=「アメリカ交響楽」、エデイ・デューチン=「愛情物語」、「グレン・ミラー物語」等々)。最近はあまり作られなくなっていたように思う。で、コール・ポーターと言えば、「夜も昼も」、「ビギン・ザ・ビギン」、「オール・オブ・ユー」、そして「インディー・ジョーンズ・魔宮の伝説」の冒頭のミュージカル・シーンに使われた「エニシング・ゴーズ」などで広く知られた作曲家であり、またMGMを中心としたミュージカル映画「踊るアメリカ艦隊」、「踊る海賊」、「キス・ミー・ケイト」、「上流社会」、「絹の靴下」などにも楽曲を提供しており、ミュージカル映画ファンには特になじみの深い伝説の作曲家であるとも言える。ちなみに、既に1946年に、「夜も昼も」という題名でコール・ポーターの伝記映画が作られている(ポーターに扮したのはケーリー・グラント)。この時はまだポーターは存命で(没年は1964年)、いわゆる半生記であった。
 で、本作は、死を目前にしたポーターが、友人の案内で劇場において彼自身の半生のドラマを眺める…というちょっと変わった趣向。ポーターに扮したのは名優ケヴィン・クライン。最愛の妻リンダを演じたのはアシュレイ・ジャッド。基本としてはポーターと妻の深い夫婦愛をしっとりと描いているのだが、「夜も昼も」と違うのは、ポーターが実はゲイであった事を暴露している点で、このあたりはいかにも今ふうである。しかしまた、妻も深く愛しており、リンダの死を看取るシーンは感動的であった。ラストは、ポーターの孤独感が悲痛で、胸を締め付けられる。監督のアーウィン・ウィンクラーは、'70年代に「いちご白書」や「ひとりぼっちの青春」等の傑作青春映画、そして「ロッキー」シリーズを製作した名プロデューサーであり、最近では「海辺の家」等、しみじみとした佳作の監督としても活躍している。本作も見応えのある作品に仕上がっている。映画ファンとして楽しいのは、舞台や街頭で歌い、踊るミュージカル・シーンがふんだんに登場する場面で、よく考えればこの映画の製作会社はかつてミュージカル映画の傑作を量産していたMGM!。中でも「ピエロになろう」(Be a Crown)という楽しいミュージカル・ナンバーは、MGMミュージカルの大傑作「雨に唄えば」の中でドナルド・オコナーが歌った"Make 'em Laugh"を思い起こさせ、特に感慨深かった。ポーター・ファンや、とりわけMGMミュージカル・ファンは必見であるとお薦めしておく。