モンスター  (米:パティ・ジェンキンス 監督)

 アメリカで実際に起きた、女性の連続殺人犯の行動と逮捕・処刑までををリアルに描いた問題作。主人公アイリーン(シャーリーズ・セロン)は、不幸な家庭環境から娼婦に身を落とし、自殺するつもりでいたが、あるバーで知り合った少女セルビー(クリスティーナ・リッチ)と意気投合し、二人で暮そうと考える。しかし売春相手の客に酷い暴行を受けたアイリーンは男を射殺してしまい、以後次々と殺人を繰り返して行く。そして遂にある日、警察に逮捕される。―
 事件の概要だけを見れば、この女はとんでもない殺人鬼のようである。しかし女性監督のパティ・ジェンキンスは、事実を丹念に追いながらも、女性の視点から、この事件の背後にあるもの―何が彼女をそこまで追いやったのか―という点について鋭く掘り下げ、これを見事な人間ドラマとして成功させている。
 親から愛情を与えられずに育ち、ほとんど人間を―人の愛を信じられなかったアイリーンが、こちらも孤独で愛に飢えていたセルビーと知り合う事によって、初めて人を愛する喜びを知る。しかしそれはいびつで、誰からも祝福されない愛なのである(セルビーの親はアイリーンを毛嫌いする)。この映画は、どん底にあえぎながらも、愛を求め続け、結局はセルビー以外の人間を誰も信じられなくなった哀れな女の、悲しくも切ない愛のドラマでもあるのだが、彼女をそこへ追いやった社会、女を性の捌け口としか見ない男たちに、まったく責任はないと言い切れるのか…と、女性監督ならではの社会批判も盛り込んだ重層的なドラマとしても見ることができるのである。
 13キロも体重を増やし、眉毛も抜き、義歯を付けてまったく別人のようにメイクしたシャーリーズ・セロンの鬼気迫る演技が見事(アカデミー主演女優賞他映画賞を総ナメ)。あどけなさと、小狡さを絶妙に表現したクリスティーナ・リッチもまた素晴らしい。監督のジェンキンスは、まだ当時32才で、これが長編デビュー作というから凄い。「人間は、誰もがモンスターになり得るのだ」という監督の言葉が重く心に残る。決して後味のいい映画ではないが、人間の愚かしさ、哀しさに胸打たれ、考えさせてくれる見事な秀作である。