東京原発  (山川 元 監督)

 これは面白い! 1昨年に完成していながら、配給先が決まらず、やっと今年になってミニシアター系で、大した宣伝もされず、マスコミで話題にもならずにひっそりと公開された作品である。何故そうなったかは映画を観れば分かる。―それは、最近の日本映画では珍しい、ブラックユーモアに満ち、政府や役所や、マスコミに対しても痛烈な批判を行った、毒ガスのような過激な作品だからである。
 カリスマ的人気のある東京都知事が、ある日都庁幹部を集め、「東京に原発を誘致する」と宣言する。「原発が安全だと国が言うなら、東京に作っても問題ないはず。地方の自然環境を破壊するなら、どうせ自然が破壊されてしまっており、大量に電気を消費する東京都民のお膝元に作る方が無駄なく合理的」と知事は力説する。各局長たちは大騒ぎとなり、全員でその問題について議論百出となる。その過程で、原発のさまざまな問題点が観客にも分かりやすく提示され、観客も一緒になって原発の是非について考えさせられる内容となっている。
 前半は、都庁の会議室の一室に舞台を限定し、まるで「十二人の怒れる男」さながらのディスカッション・ドラマが展開される。後半は一転、爆弾マニアの高校生によってプルトニウムを積載したトラックがハイジャックされ、時限爆弾が誤って作動された為に、もし爆発すれば日本中に放射能が撒き散らされることになる。この危機を都知事たちはどう防ぐのか…というタイムリミット・サスペンス・ドラマとなる。
 役者の顔ぶれがいい。都知事を演じる役所広司のうまさは言うまでもないが、会議室のメンバーが段田安則、岸部一徳、吉田日出子、平田満、田山涼成、菅原大吉・・・と、舞台でも実績のある達者な人たちばかりで安心して観ていられる。ストーリーを抜きにしても、うまい役者の丁々発止の演技合戦を見ているだけでも楽しい。「デビルマン」のドヘタな演技にあきれた後だけに、余計うまさが引き立っていた(笑)。
 オリジナル脚本も書いた監督の山川元は、原発に関する資料を徹底的に調べたようで、原発誘致に留まらず、使用済核燃料の処理、高速増殖炉の問題、プルサーマル・・・と、原子力発電に関するさまざまな問題点を要領よく提起し、国の怠慢、役所の縄張り意識、ジャーナリストとしての嗅覚や批判精神を失っているマスコミ、さらにはこうした問題に無関心な一般大衆に対しても鋭い批判の眼を向けている。フィクションではあるが、その鋭い問題提起と、ブラックな笑い、過激なアジテーションぶりは、「華氏911」のマイケル・ムーアを彷彿とさせる。日本映画としては、まさに近来稀に見る強烈な批評精神に満ちた快作である。大手映画会社は、中味スカスカの空疎な凡作を封切るより、こういった奥の深い良質の作品をこそ多くの人に見せる努力をするべきではないか(そんな勇気などないだろうな…)。必見である。おススメ。