LOVERS  (中国:チャン・イーモウ 監督)

 「HERO」に続く、チャン・イーモウ監督の武侠映画。物語は、チャン・ツィイー扮する、盲目のヒロインに、彼女をそれぞれに愛する二人の男(アンディ・ラウ、金城武)が絡む三角関係のドラマという横糸に、反政府組織の壊滅という使命を帯びた捕吏(金城)とツィイーとの逃避行と、敵味方入り乱れた凄絶な戦いを縦糸として、裏切り、二重スパイなどもからんで波乱万丈の展開を見せる。だが、この映画の魅力はひとえに、チャン・ツィイーの美しさ、ワイヤースタントを使った華麗な殺陣などのビジュアルの素晴らしさにある。とりわけ、冒頭の、ツィイーが舞う、太鼓を使った踊りのシーンのめくるめく鮮やかさ、竹林の中で展開するアクション・シーン、いずれもCGとワイヤーを多用した演出が見事。これらのシーンだけでも料金分の価値はある。なお、この竹林の中のチャンバラ・アクションは、香港のクロサワと称されたキン・フーの傑作「侠女」(71・香港映画で最初にワイヤー・スタントを採り入れた作品)へのオマージュでもある。
 無論、物語にやや難がある点は否めない。二転、三転するストーリー展開とラブ・ストーリーとがうまく溶け合っていないし、最後は組織の顛末をほったらかして女をめぐっての決闘…というのも中途半端。何より、ツィイーの隠された実体が明らかになる展開では、物語としての反則(観ていない人の為にここでは書かない)技まで使っている。これはちょっと捻り過ぎて失敗しているのではないか。…もっとも、当初参加する予定だったアニタ・ムイ(組織の首領役だったらしい)が撮影開始直後に急死するというアクシデントがあり、ムイに弔意を示す為代役は立てなかったという事情があったようだ。肝心なストーリーが一部欠落しているように見えるのはその為であろう。もしアニタ・ムイが出演しておれば、もっとストーリーはちゃんとした物になっていた可能性はある。イーモウにとっても無念であったに違いない。
 しかし、そうした難点があっても、やはりこの映画は素敵である。ヒロインの美しさと気丈さ、使命を捨ててでも女を愛し守り通そうとする男たちの熱い闘い。彼らのどちらも愛するが故に、命を賭けて屹立するツィイーの思い…。その心の熱さと思いは確かに伝わって来る。それだけでも感動的である。「HERO」よりはやや落ちるが、やはり捨て難い魅力に満ち溢れた佳作であろう。