スパイダーマン2   (コロムビア:サム・ライミ 監督)

 2年前に公開され、大ヒットしたアメコミ原作もののパート2。前作も観ているが、ビルの谷間を飛び渡るCG特撮が見事でそこは感心したものの、出来としては単なるハリウッド娯楽映画の域を出ておらず、私的には大して評価はしていない。監督が「ダークマン」以来お気に入りのサム・ライミでなければ鼻にも引っ掛けなかったと思う。
 で、今回の作品もあまり期待はしていなかったのだが、どっこい、今回は面白い!。これはおススメです。うーん、だから映画は観ないことには分からない(笑)。
 前作でも描かれてはいたが、主人公ピーター(トビー・マグワイア)はクモのエキスのおかげで超能力を持つものの、普段はごくありふれた、むしろ何をするにしてもグズな、やや落ちこぼれに近い青年である。ガールフレンド、MJ(キルスティン・ダンスト)とのぎこちない恋もあり、学園青春ものとしての味わいもある。本作もそのテイストは同じである。
 ところが、本作が面白いのは、ピーターが、ヒーローとしての使命とMJとの恋との板挟みで悩み、困っている人を見捨てられない為にMJとの恋もうまく行かず、悩み、落ち込み、遂にスパイダーマンのコスチュームを捨てて普通の人間になる決心をするくだりである。…これはある意味、すべてのヒーローものにも当てはまる悩みである。クリストファー・リーブ主演の「スーパーマンU/冒険編」(リチャード・レスター監督)でも、スーパーマンはロイスとの恋とヒーローのアイデンティティの板挟みで悩み、超能力を捨てて普通の人間になろうとするシークェンスがあった。本作はさらに、ピーターもそうだが、MJもピーターを愛すべきかどうかで悩み、ハリー(ジェームズ・フランコ)も父の仇スパイダーマンへの復讐心に燃えているが、親友ピーターとは熱い友情で結ばれ、悪役のドク・オク(アルフレッド・モリーナ)も元々は科学を人類の為に役立てようとしながらも、実験の失敗からその思いがいびつな方向に向かった悲劇の主人公…と、どの登場人物も人間的な葛藤を抱え、苦悩する深みのあるキャラクターになっている。アクション・ヒーローものでありながら、類型パターンになっておらず、人物描写がきめ細かいのである。
 さらに素敵なのは、そうやってヒーローを捨てたにも係わらず、ピーターは火事でとり残された子供がいると、つい飛び込んで助けてあげようとする。一旦ヒーローになった男は、いくら普通の人間になろうとしても、潜在意識ではヒーローの心を捨てきれないのである。そして敬愛するメイ叔母さん(ローズマリー・ハリス)と、そこで手伝いをする少年の一言から、遂にもう一度ヒーローに戻る事を決心するくだりは感動的である。その後、地下鉄で体を張って乗客を助けるシーンで、子供たちがピーターに囁く言葉にも泣かされます。
 これは、ヒーローとはどうあるべきなのか、超能力を持った人間は、その能力をどう使うべきなのか(これは、使い方を誤ったドク・オクにも当てはまる)というテーマに深く切り込み、ヒーローとしての使命感を自覚し、ヒーローとして生きる道を選ぶに至る主人公の心の成長をストレートに描いた勇気と感動のドラマである。そのテーマと、CGをフルに生かしたアクション・ドラマ部分とが完璧に違和感なく融合しているのも素晴らしい。こういうアクションものが苦手な人にもお薦めしたい、これは思いがけない素敵な秀作である。    

(付記)ちょっと余談だが、主人公がささいな事で悩み、それが元で超能力まで失ってしまうくだりは、宮崎アニメ「魔女の宅急便」にヒントを得ているのではないだろうか。好きな男の子(女の子)が、カワイ子ちゃん(素敵な彼氏)といる所を見ただけで落ち込み、そんな自分自身がイヤになったり悩んだりする所までよく似ている。