4人の食卓   (韓国:イ・スヨン 監督)

 これまた韓国映画。別に韓国映画にハマっているわけではない。他の外国映画に、も一つ面白い作品がない為である(それにしても、いくら韓流ブームだからといって、こんな作品など数年前なら絶対輸入されなかっただろう)。
 これは、33才の新人女流監督、イ・スヨンによる、初の長編劇映画である。短編映画で高く評価された後、自身で長く暖めて来た脚本を自ら映画化した。一言で言えば、サイコ・ホラーという事になる。しかし一筋縄では行かない。ホラー映画によくあるショッカー演出はむしろ控え目であるが、観た後でジワジワ恐怖が広がる、現代の底知れぬ恐ろしさを描く事に成功している。
 主人公はインテリア・デザイナー、ジョンウォン(パク・シニャン)。ある日最終電車の中で、寝過ごして慌てて飛び降りた時、2人の幼い少女が眠って取り残されているのを目撃する。実は2人は親に毒殺されていたのだが、その日から自宅の食卓に2人の少女の姿が見えるようになってしまう…。音楽で脅かすわけでもなく、振り向いたら少女がいる―というさりげない演出が余計に怖い。幽霊ものだと思ってしまうが、実はジョンウォンには子供の時のトラウマがあった…というあたりから怖さは静かに増殖する。そしてもう一人、夫との離婚を控えているヨン(チョン・ジヒョン)はふとした事からジョンウォンと知り合う。彼女には他人の意識下の映像が見える能力が備わっている。ジョンウォンが見る少女は亡霊なのか、幻覚なのか…、過去のトラウマとはどう繋がるのか…映画は謎を秘めたまま、答を示さないままに終わる。観客には不親切な作りであるので、不満を感じる人も多いだろう。だがこれは、黒沢清の「CURE(キュア)」や「回路」と同様、高度に成長した現代の都市と、そこで生活するストレスを抱えた現代人の誰もが潜在的に抱く得体の知れない“闇”を描いた映画なのである。この映画を見た後、1人で生活している人は、夜に食卓のテーブルを見たらゾーッとするかも知れない。なまじ幽霊が出てくる映画よりも、こちらの方が見終わってから後に尾を引く分だけ余計怖い。「猟奇的な彼女」で一躍スターとなったチョン・ジヒョンが、ここでは生活にやつれた主婦という難しい役を演じているが、やはりいい味を出している。韓国映画が、心理サスペンス・スリラーの分野でも力をつけて来た事を示す力作である。