ブラザーフッド   (韓国:カン・ジェギュ 監督)

 この所、韓国映画の勢いが凄い。それも実にテリトリーが広い。政治の暗部に斬り込んだ「二重スパイ」、「JSA」、「シルミド」、犯罪サスペンスの傑作「殺人の追憶」、ホラー・サスペンス「ボイス」、「4人の食卓」、青春映画「友へ−チング−」、不思議なラブストーリー「猟奇的な彼女」…と、そのバラエティの豊かさには感心する。そしてどれも作品的完成度も高く、興行的にも大成功を収めている。そして4年前、「シュリ」で日本における韓国映画の興行記録を塗り替え、韓国映画のイメージアップに多大な貢献をしたカン・ジェギュ監督の新作「ブラザーフッド」が登場した。
 前作でも、ハリウッド映画的要素を巧みに取り入れ、スケール感のあるアクション映画に仕上げていたが、本作も「プライベート・ライアン」や「ブラックホーク・ダウン」を参考にしたと思われる凄惨な戦闘シーンがある。しかし物語の中核をなすのは、戦争によって引き裂かれる肉親、あるいは民族の悲劇である。朝鮮戦争に関する映画は、我々は「トコリの橋」(55・マーク・ロブソン監督)、「追撃機」(58・ディック・パウエル監督)とか「M★A★S★H」(70・ロバート・アルトマン監督)などのアメリカ映画しか知らない(それも、韓国人兵士の戦いぶりなどはまったく登場せず、前2者においてはミグ戦闘機と米軍のパンサーやF-86Fセイバー戦闘機とのカッコいい空中戦のみ印象に残り、後者はブラック・コメディだった)。本作によって、韓国の多くの若者が戦場に赴いたこと、その戦闘がいかに激烈だったかがよく伝わって来る。
 物語は、否応なく徴兵され、戦争に巻き込まれた一組の兄弟の過酷な運命を描く。弟を除隊させる為に進んで危険な任務に志願する兄ジンテ(チャン・ドンコン)、その兄の気持ちが理解できず悩む弟ジンソク(ウォンビン)。心が繋がっているはずなのに、理解出来ず、離れ離れになってしまう兄弟は、そのまま北と南に分断された二つの国家の悲劇を二重写しにしていると言える。後半で兄が北朝鮮兵士になってしまう展開は唐突に見えるかも知れないが、二人に南北分断を象徴させていると見れば理解出来るだろう。戦闘シーンの迫力は、アメリカ映画と比較しても遜色ない。これだけの映画を作り上げ、それを大ヒット(またまた興行記録を塗り替えたそうだ)させてしまう韓国映画のエネルギッシュなパワーをまざまざと実感せざるを得ない。
 戦争は悲劇である。親子、兄弟、最愛の恋人たちをも引き裂いて行く地獄絵である。こうした映画は日本でももっともっと作られなければならないと思う。第2次大戦の、南方の島々における凄惨極まる戦いの悲劇(今も無名の遺骨が眠る)などは、日本の映画人によって迫真のCG技術で是非再現して欲しいと思う。心に残る戦争映画の佳作である。