下妻物語   (東宝:中島 哲也 監督)

 この作品、正直言ってあまり触手が動かなかった。予告編はよく見ていたが、何か安っぽく、下品なイメージがあった(ウンコとかおナラが出てくる予告編はどうかと思う)。ところが、いろいろ聞いているとなかなか評判がいいし、監督が、テレビCMでサッポロ黒ラベル(山崎努と豊川悦司がスローモーションで対決するアレ)を手掛けた人という事を知ったので、ひょっとしたら…と思い、出かけて見たのである。
 結果は大正解。これは面白い!。こんな面白い映画だとは想像できなかった。やっぱり映画は観てみないと分からないもんである。
 舞台は茨城県下妻。田んぼだらけの田舎町を場違いに闊歩するロリータ・ファッションの女の子・桃子(深田恭子)と、片やバリバリのヤンキー娘・イチゴ(土屋アンナ)との友情の物語である。どっちも普通から見ればぶっ飛んでいる。しかし彼女たちはそれぞれにおいて自分の生き方をまっとうしているに過ぎない。その生き方が、中島監督のこれまたアニメやコマ落としを活用したポップな画面作りと相まって、映画としてのダイナミズムを生み出している。とにかくこんなイキのいい、ハジけた日本映画を観るのは久しぶり。画面作りとしては石井克人監督の「PARTY7」を思わせるが、あの作品は最後メロメロになってしまらない出来になっていた。それに比べれば、この映画は最後にヤンキー娘とロリータ娘の、男同士の友情にも負けない、熱い友情と戦いを持ってきた事によって、ドラマとしてもきちんと起承転結を踏んだ、しっかりした出来になっており、我々は予想もしなかった二人の熱血と友情のドラマにホロリと感動することとなるのである。中島監督は「原作は今どき珍しい任侠映画みたいでしたからね。『昭和残侠伝』の高倉健と池部良みたいな」(キネマ旬報6月上旬号)と語っているが、そう言えばイチゴが着るカラフルな刺繍のあるガクランは任侠映画の刺青を想起させる。そう、これは日本人の心の琴線に触れる事によって一時代を築いた任侠映画の精神を、新しい皮袋に盛り込んだ作品なのである。「死者の学園祭」ではまったく冴えなかった深田恭子がここでは見違えるほど生き生きしているし(ラストの突っ張り啖呵は必聴)、土屋アンナも新人らしからぬ元気さを見せる。秀作とか傑作とか言うレベルではないが、元気で威勢のいい日本映画を渇望している映画ファンは必見の快作である。