海 猿   (東宝:羽住 英一郎 監督)

 海上保安庁の潜水士を目指す若者たちの訓練の日々を描いた、同名の漫画の映画化。厳しい教官にしごかれ、成長して行く若者たち…という設定は、(原作もそうだが)明らかに「愛と青春の旅立ち」や「トップガン」などを意識していると思われる。口の悪い者は、パクリだ…と騒いでいるようである。だが、洋画だって過去の名作からいただいている作品はいっぱいある。早い話、わが日本でだって「トップガン」より4半世紀も前に「今日もわれ大空にあり」(64・古沢憲吾監督)という、自衛隊の飛行訓練士と、彼らを育てる教官を主人公にしたドラマが作られている。要は過去の作品の焼き直しであろうが何だろうが、どれだけ面白く、感動させてくれるドラマを作れるか…という事なのである。
 そこで本作だが、想像以上に面白かった。鬼教官
(藤竜也)の厳しい訓練ぶり、それに耐えて少しづつ成長して行く若者たち、落ちこぼれそうになる仲間もいればライバル意識を燃やす同僚もいる、ふとした事で出会った女性との恋もあり…と型通りのパターンがうまく盛り込まれているが、一番のポイントは、“仲間(バディ)と海中に取り残された時、バディを見捨てられるか”というテーマがメインに設けられ、すべてのドラマがそこに収束して行くように組み立てられた構成のうまさにある。
 映画をまだご覧になっていない方の為に、詳細は避けるが、教官自身のトラウマ、“仲間を二度と失いたくない”という主人公の悲痛な叫び、そして訓練士たちの熱い友情―これらが一体となってラストの怒涛のクライマックスに向かってドラマは突き進む。このクライマックスは泣けます。感動します。
 これが劇場映画第1作とは思えない、テレビ・ディレクター出身の羽住監督のテンポのいい演出が見事。海上保安庁の全面協力を得たスケール感のある映像もいい。そして何より鬼教官を演じた藤竜也の演技・存在感が素晴らしい。今年の助演男優賞候補である。日活でチンピラ・ヒーローを演じていた頃から見ている役者が、これだけ渋い、いい役者になった事がとりわけうれしい。日本映画には珍しいスケールとダイナミズムと感動に満ちた、洋画ファンにも是非お勧めの青春映画の快作である。