死に花   (東映:犬童 一心 監督)

 「ジョゼと虎と魚たち」という秀作を発表して、一躍日本映画界のホープとして注目された犬童監督の新作。今回は一転、老人が主役のコメディ…という、前作とは180度異なる作品に挑戦した。主演は、なつかしや元クレージー・キャッツの谷啓に、クレージーとは縁が深い青島幸男、これも久しぶりの宇津井健に、「世界の中心で、愛をさけぶ」にも出ている山崎努、助演にはこれもなつかしい松原智惠子、藤岡琢也に長門勇…と豪華な顔ぶれ。お話は、老人たちのチームが銀行の金庫を襲う―という、奇想天外なストーリー。うーむ、これはちょっと期待したくなるではないか。
 で、観ての感想。…着想は確かに面白い。だが、話に無理が多すぎる。私は「スクール・オブ・ロック」評でも書いたが、面白ければ多少辻褄が合わなくても、突っ込みどころがあっても構わない主義である。特にこういう奇抜な設定であれば、話が荒唐無稽であろうと、笑わせ、泣かせ、興奮させてくれれば文句はない。しかし…。
 冒頭、仲間の老人(藤岡琢也)が老人ホームで亡くなるのだが、その告別式が、ダラダラと長い。まあその内容がちょっとユニークで面白いかな…とは思うのだが、結局本編とは何の関係もないエピソードなのだから不要ではなかったか。かえって映画に締まりがなくなった気がする。
 さて、その老人が残した、銀行金庫襲撃のシナリオを元に、老人チームが計画を開始するわけなのだが、いつの間にそんな下調べをしたのだろうか(銀行内部の見取り図なんてそんなに簡単には手に入らないはず)。あんなに詳細に写真や資料を集めるのは、誰かに手助けしてもらわないと不可能だと思うのだが…その辺をまったく描いてないのは脚本の手抜き。こっそり写真を撮っているシーンくらいは伏線として入れるべきだろう。他にも、普通のご婦人である松原智惠子が嬉々としてこんな途方もない犯罪に加わる心理的動機も分からない。あれだけ頻繁に老人ホームを抜け出して、しかも泥だらけになっているはずなのに、不審に思う人間がいないというのも不自然過ぎる。…他にもいろいろあるが、ネタバレになるのでこれ以上は書かない。これは一種のファンタジーだと思うのだが、それであってもディテールはもっと丁寧に描くべきである。“小さな真実を積み重ねて、大きなホラを吹く”のがこの手の作品の基本なのである。それに、コメディ・タッチとは言え、一応犯罪ドラマなのだから、些細なミスからバレそうになったり、ジャマが入ったり…のハラハラ、ドキドキのサスペンスを盛り込めばもっと面白くなったはずである。
 とまあ、いろいろ書いたが、谷啓や青島の怪演(?)もあって、それなりに楽しめる出来ではある。何よりも、老人たちが、子供に戻ったように、楽しそうに計画を進めて行くプロセスは観ていてこちらもウキウキして来る。ラストの展開は原作よりもうんと荒唐無稽で、笑ってしまった(しかし構造上、あんなになるわけはないのだが。まあ許そう)。しかし、シナリオをきちんと練りに練っておけば、もっと素晴らしい快作になったかも知れない。そこが残念なのである。蛇足だが、松原智惠子の○ッドシーン、昔の日活時代でもお目にかかれなかっただけにこれは見もの。しかし未だにお美しいですねぇ(笑)。