ルーニー・テューンズ バック・イン・アクション (ワーナー:ジョー・ダンテ 監督)

 懐かしい!バッグス・バニーコヨーテとロードランナーヨセミテ・サムなどのワーナー・アニメ・キャラクターが実写の人間と共演するコメディ・アクションである。まあ、以前にロバート・ゼメキス監督により映画化された「ロジャー・ラビット」と似たような企画・・・と思ってしまうが、監督がB級映画オタクでアニメ大好きのジョー・ダンテであるからには、只の映画で終わるわけがない。そして案の定、これは過去の名作・駄作ひっくるめたいろんな映画へのオマージュとパロディがぎっしり詰まった、映画ファンなら大喜びする楽しい快作であった。
 主人公は、ワーナー映画撮影所の警備員であるDJ(ブレンダン・フレイザー)。ワーナー・アニメのスターだったダフィー・ダックがリストラでクビになり、その騒動に巻き込まれてDJもクビになってしまう。ところが家に帰れば、スパイ映画のスターであるDJの父親(ティモシー・ダルトン)が悪の組織に誘拐された事が分かる。父は本物のスパイでもあったのだ。かくして父を探してDJとダフィーのコンビが冒険の旅に出る…というストーリー。しかし本筋なんかどうでも良くて、ただひたすら、次から次へと登場するマンガや映画のパロディやギャグの洪水に浸り、大笑いして楽しめばよいのである。
 配役も凝っていて、4代目ジェームズ・ボンド役者だったティモシー・ダルトンがスパイ映画俳優役を演じるのも楽しいし、悪玉のアクメ社総帥がスティーブ・マーチン(ほとんど本人と分からない)というのも面白い。その他ジョーン・キューザックなど有名スターもカメオ出演している。
 最高に楽しいのが、ヒッチコックの「サイコ」のパロディ。例のカーテンを開けると、ご丁寧にモノクロ画面になってバッグスの絶叫、排水溝に黒い水(チョコレートらしい(笑))が吸い込まれ、やがてカメラが排水口に寄り、そこにバッグスの目のアップがオーバーラップする…という徹底ぶり(映画ファンなら大笑いできるが、逆に「サイコ」を知らない観客はキョトンとするでしょうな)。その他にも、「レイダース・失われた聖櫃(アーク)」やら「スター・ウォーズ」やら、ついでにブレンダンの主演作「ハムナプトラ」の楽屋落ちまで登場するし、ラストにはDJがブレンダン本人と鉢合わせするあたりも笑える。
 中でも、おおーっと唸ったのが、アニメ・キャラたちが追っかけをしているうちに、ルーブル美術館の名画の中に飛び込んでしまうくだりで(これは黒澤明の「夢」のパロディ?)、サルバトール・ダリ(ぐにゃり曲がった時計)や、ムンクの「叫び」、ジョルジュ・スーラ(*) の「グランド・ジャット島の日曜日の午後」などの絵の中で、ダフィーたちがダリの絵のようにぐんにゃりしたり、ムンク調の絵柄になったり、点描画で有名なスーラの絵の中では、アニメキャラも点描になって風で飛んでしまうあたりは、美術に詳しい人ほどその懲り様に感心することだろう。そのムチャクチャな面白さは、とにかく実際に観ていただくしかない。
 凝ったパロディはそればかりではない。主人公たちが砂漠の秘密基地エリア52(“51”ではない(笑))に捕獲されている、いろんなエイリアンたちと遭遇するシークェンス。ここで、B級SF映画ファンなら泣いて喜ぶシーンが続出する。いきなり、今も人気がある「禁断の惑星」のロボット・ロビー(右参照)が登場するし、「宇宙水爆戦」メタルーナ・ミュータント「人類SOS」の植物怪獣トリフィッドなどはともかくとして、おそらく余程のSF映画ファンでなければ知らない「ロボット・モンスター」「惑星Xから来た男」(これらは輸入版ビデオでしかお目にかかれない)に登場するエイリアンとか、脳ミソに脊髄の尻尾が生えた「顔のない悪魔」のクリーチャーなど…がゾロゾロ出てきたり、ドン・シーゲル監督による本邦未公開の傑作SF「ボデイ・スナッチャー/恐怖の街」に登場する大きな鞘豆を抱えた男(同作に主演したケヴィン・マッカーシー本人が出演。ご丁寧に全身モノクロに塗っている)が通り過ぎたり…と、まさにダンテのB級映画趣味もここに極まれり――と言ったところで、'50年代SFに興味のある私なんかはもう笑いっぱなしで大いに楽しませてもらった。…しかしねえ、これを子供向けアニメだと思って劇場にやって来たガキどもや普通のアクションを観に来た大人の観客(当然原典なんか知るはずもない)にとっては???のシーンの連続で、あっけに取られた事だろう。
 まあそんなわけで、パロディ映画もアニメもB級SF映画も大好きな私には大満足な快作であったが、あまりに趣味に走った作りに一般観客はついて行けなかったと見えて、アメリカでも日本でも興行的には惨敗だったという。まあ当然だろう。これでジョー・ダンテが当分の間、映画を撮らせてもらえなくなりはしないか、それがちょっと気がかりではある。 
    
(*)この映画に登場する、スーラの絵に関しては、こちらを参照ください。
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http://www1.megaegg.ne.jp/~summy/gallery/grande-jatte.html