クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスガベボーイズ   (東宝:水島 努 監督)

 「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」(01)や「アッパレ!戦国大合戦」(02)などの傑作を連打して、子供よりも大人に人気のあるしんちゃんシリーズ。しかしあまりに観客たるべき子供たちを無視して(?)突っ走った事への反省か?前作からはそれまでの秀作を監督して来た原恵一が後方に退いて(絵コンテ等には参加)、シリーズの絵コンテ・演出を担当していた水島努が監督に昇格した。そんなこともあって前作「栄光のヤキニクロード」(03)はも一つ劇場に行く気になれず、最近テレビで観たのだが、まあ思ったよりは面白かった。例によって映画のパロディ(「地獄の黙示録」のキルゴア大佐そっくりな敵の人物が、「朝のみそ汁の匂いは格別だ」というセリフを吐くのには笑った)が頻発しており、ギャグも楽しかったが、前記2作のような、大人の感性をくすぐる要素はやや希薄で(まあそっちの方が子供向けアニメとしては邪道なのだが)、前記2作に感動した人たち(私も含めて)には不評だったようだ。
 さて、水島演出2作目となる本作だが、題名からも分かるように、西部劇のパロディがふんだん盛り込まれていて、しかも泣かせる要素もあり、「戦国大合戦」よりは落ちるが、「ヤキニクロード」よりは面白かった…というのが感想である。
 お話は、鬼ごっこ(これが結構楽しい)をしていたしんちゃんたち5人組が、裏通りにある閉館した映画館、カスカベ座に紛れ込み、そこでしんちゃんの両親も含めてスクリーンの中(西部劇の世界)に取り込まれてしまい、さて、しんちゃんたちはこの世界から脱出できるのか…という展開。簡単に言えばウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」とロバート・ゼメキスの「バック・トゥ・ザ・フューチャー Part3」を足したような内容である(後半は「バック・トゥ−」と同じく機関車を使った大アクションが展開)。例によって映画のパロディがてんこ盛り。「ガンヒルの決闘」のように、強大な権力を持つボスが牛耳る街が舞台。クラウス・キンスキーそっくりな悪役がいたり(笑)、音楽がまさにマカロニ・ウェスタン調で、西部劇ファンには楽しめる作りになっている(クライマックスではあの「○○の七人」まで登場)。前半は我慢の連続で、観客の子供たちは退屈気味であったが、後半はテンポいいアクションのつるべ打ち。科学者が作ったヒーロー・パンツを履いたチビッコ5人組が、スーパーマン並みのパワーを持ったり、空まで飛ぶあたりは爽快で、仲間を助ける友情もあり、最後もホロッと泣かせてくれます。春日部の住人として登場する、映画好きのマイクさんなる太った方は無論映画評論家兼映画監督のあの人ですね(笑)。
 水島監督、原恵一監督と比較されてやりにくいかも知れないが、ともかく子供が見ても大いに楽しめるし、西部劇ファンの大人の心もくすぐる、まずまずの水準作としてよく頑張っている。むしろ、友情、冒険、勇気を柱とした、子供向けアニメとしては堂々王道を行く作りとなっているのが清々しい。これが本来のクレしんムービーのありうべき姿なのかも知れない。