シービスケット  (ユニバーサル/他:ゲイリー・ロス 監督)

 アメリカが恐慌にあえいでいた1930年代に、人々に希望を与えた競走馬の実話を描いた感動の物語。

 本作に登場するのは、いずれも心に傷を負った3人の男たち−少年時代にさまざまな苦難を背負い、騎手になっても目が出ないレッド(トビー・マクガイア)、事業に成功しながらも、最愛の息子を自動車事故で失い失意から立ち直れないハワード(ジェフ・ブリッジス)、馬を愛するが故に時代から取り残されて行く調教師スミス(クリス・クーパー)。これらの男たちが、小柄で気性が荒い為に、見捨てられようとしていた馬シービスケットを中心に出会うこととなる。ハワードは馬主として、スミスは調教師として、レッドは騎手としてシービスケットに係わり、そして小柄な故に全く期待されていなかったシービスケットは奇跡のように連戦連勝を重ね、熱狂的な人気を獲得して行く。
 これは、人生に一度つまずいた男たちが、これも一度捨てられかけた馬に夢を託し、それぞれに再生して行くドラマである。私が特に感動したのは、シービスケットが一度足を痛め、獣医が「安楽死させますか?」とハワードに聞いた時、「いや、殺さない」とハワードが答え、そして厳しいリハビリを経たシービスケットが奇跡的に復活し、再び連勝街道を驀進し始めるというくだりである。当時は足を痛めた馬は射殺するのが普通だったからである(「彼らは廃馬を撃つ」という原題の、ジェーン・フォンダ主演「ひとりぼっちの青春」という映画を思い出した。あの映画の時代背景も「シービスケット」と同じ'30年代であった)。この馬の活躍に当時の人々が熱狂したのは、そんなエピソードからも分かる通り、「一度や二度つまずいたって、人生はやり直せる」−そんな勇気と希望を人々に与える役割を果たしたからなのだろう。映画を観ている我々もまた、この再生のドラマに感動し、勇気を与えられることとなる。
ことさら感動を押し付けようとしないゲイリー・ロスの演出にも好感が持てる。俳優ではクリス・クーパーがいい味を出している。また競馬シーンは、馬とともに疾走する、実際の騎手の視点から描かれており、すごい迫力である(CGではなく、実際に馬と並走しながら撮影したそうだ)。レッドの、右目の視力の減退という危機も乗り越え、さらに誰も前にいないレース場を疾走して行くラストも感動的である。製作はかつてスピルバーグと組んで数多くの名作を生み出して来たフランク・マーシャルとキャスリーン・ケネディのコンビ(「シックス・センス」もこの二人のプロデュース)。このコンビのプロデュース作品は今後も要チェックであろう。