ゼブラーマン (東映:三池 崇史 監督)
日本一忙しい監督・三池と、日本一忙しい脚本家・宮藤官九郎とが初めてコラボレーションを行い、これもまた映画にVシネマに大忙しの哀川翔が主演した、まさにユニークな組み合わせにふさわしい快作が出来上がった。
主人公市川新市(哀川翔)は風采の上がらない小学校の教師。学校でも家でも影が薄い。しかし彼は、子供の頃に放映されていたテレビ特撮番組「ゼブラーマン」の隠れた大ファンで、自らミシンで作った手製のコスチュームをまとっては1人悦に入ってる…という、ややオタクな男。前半はこの市川のなんとも情けない、ドジで子供っぽい行動がコミカルに描かれて笑わせられる。 ところが中盤から、人間の体を乗っ取り、地球を侵略しようと企む宇宙人が正体を現わし、これに気付いた市川は次第に地球を守るヒーローになるべく、努力を重ねて行くのである。
時々難解な作品を作ってしまう三池にしては、ごく判り易い正攻法の演出で、後半に向けてグイグイドラマを引っ張って行く。宇宙人に乗っ取られかけた自分の息子を救った事から、気の弱かった市川は息子にも励まされ、夢見るだけでしかなかった正義のヒーローに本当になろうと決意する。かつてのテレビドラマでは、ゼブラーマンは空を飛べなかったから負けた事を知った市川は、無謀にも空を飛ぶ特訓を積み重ねる。何度も何度も墜落し、コスチュームはボロボロになって行く。しかし息子の「お父さん、頑張って!」の声や、マドンナ、可奈(鈴木京香)にも励まされ、やがて彼は遂に本当の闘うヒーローに変身してしまうのである。このあたりは泣ける。可奈の息子で、足の悪い晋平が「勇気を出せば出来るんだ」と必死で立ち上がって見せようとするシーンにも胸が熱くなるし、その晋平が宇宙人に校舎から落とされた時、彼を救う為、遂にゼブラーマンが空を飛ぶ…このシーンはあの「E.T.」で自転車の少年たちが空に舞い上がるクライマックスを思い起こして涙が溢れそうになった。「信じれば、夢はかなえられる」というセリフが出て来るが、まさにこれは夢を信じ続けた男が、究極の夢を実現してしまう奇跡の物語なのである。「なぜ市川が空を飛べるのか分らない」なんてヤボを言う人はこの映画を楽しむ資格はない。映画そのものが現実にはありえない夢の世界を映像化する装置なのだから。誰もがスクリーンに夢を投影し、そして我々と同じ等身大の普通のお父さんが子供の為に、家族の為に戦い、奇跡のヒーローになれる…。それが映画である。子供の頃にスーパーヒーローが戦うドラマに夢中になった経験があり、大人になっても子供の頃の夢を忘れていない、子供を持った、ちょっと疲れたお父さんならきっと涙してしまい、そして元気になれる、これはそんな素敵な映画なのである。見るべし!
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