MUSA <武士>  (韓国:キム・ソンス 監督)

 珍しや、韓国製チャンバラ映画。1375年、高麗から中国への使節団が最初は誤解からか中国に受け入れてもらえず、帰途に蒙古軍が拉致した中国の姫君(チャン・ツィイー)を助ける。彼らは最初は姫を中国との交渉を有利にする道具として考えていたが、やがて姫を取り返しに襲って来る蒙古軍と闘ううちに、彼らは武士としての誇りに目覚め、打算を捨て、命を賭けて姫を守り通そうとする…。
 ストーリーから連想出来るように、これは黒澤明の「七人の侍」にヒントを得たらしき時代アクションである(キム監督自身も黒澤明の大ファンであり、「七人の侍」は大好きな作品だと語っている)。キャラクターも、「七人−」の久蔵(宮口精二)を思わせる老練・沈着な弓の達人(アン・ソンギ)がいたり、奴隷ながら槍の達人である若者ヨソル(チョン・ヨソン)がいたり…さまざまなキャラクターがうまく描き分けられている。後半は荒れ果てた砦に立て籠もって蒙古軍との壮絶な戦闘がクライマックスとなる。この砦の攻防戦は「アラモ」を思わせるが、少数の武士たちが姫や難民集団を守って闘うあたりはやはり「七人の侍」にも似ている。
 戦闘シーンもダイナミックだが、やはり武士たちの心の気高さに胸打たれる。姫を差し出せば彼らは皆助かるのである。姫も一時は自分の身を差し出そうとするが、ヨソルたちが体を張って彼女を止め、やがて激しい戦闘で兵士たちが次々と死んで行き、遂には姫を守るのに懐疑的だった兵士や僧や難民たちまでもが一丸となって戦い始める姿は感動的である。美しく勝気だが、やさしい心も持つ姫を演じたチャン・ツィイーが素敵。砂漠から峡谷、森林から海辺の砦へと、舞台転換もうまい。そして“人は他人の為にどれだけ自己を犠牲にできるのか”というテーマにストレートに向かい合い、感動的な物語に仕上げた監督、キム・ソンスの手腕に拍手を送りたい。これは拾い物のスペクタクル時代活劇の佳作である。
 それにしても…「ラスト サムライ」といい本作といい、黒澤映画に影響を受けたスペクタクル時代劇が次々海外で作られているのは、日本人としてはなんとも複雑な思いに捉われてしまう。なぜこうしたチャンバラ映画がわが国に登場しないのか。…「あずみ」や「魔界転生」などの、お子さまランチに毛の生えた程度の時代劇なんかを作っている場合ではないと思うのだが…(黒澤明は「七人の侍」を作る際に、「カツ丼の上にビフテキとウナギを乗せたような映画を作る」と言っていた)。日本の映画人たちよ、深く反省して欲しい。