この世の外へ−クラブ進駐軍−  (松竹:阪本 順治 監督)

 敗戦後の日本を舞台に、ジャズに魅せられた男たちとアメリカ進駐軍兵士との熱い友情を描いた、阪本順治監督の力作(原案・脚本も阪本監督自身)。
 進駐軍という言葉は、60歳を超えた人には懐かしい響きがあると思う。なぜ今進駐軍なのか…。それは阪本監督の製作意図を聞けば理解できる。「『KT』、『ぼくんち』と続いて、もう一度昭和というものを見つめ直したいという思いがあって、それなら時代を遡るしかないだろうと。そんな中で9.11やイラク情勢のニュースを聞くうち、戦争に絡むものをという意識が固まった」(キネマ旬報インタビューより)
 自衛隊のイラク派遣も決まり、世の中が騒がしくなっている今の時代、あの終戦後の時代状況を描く事は確かに意義があると思う(イラクへの派遣は、まさに“進駐”である)。しかしこの映画は、そんな難しい理屈を考えなくても、十分に面白く、感動的な作品になっている。
 主人公広岡健太郎(萩原聖人)は楽器屋の倅で、仲間たちを集め、進駐軍のクラブで演奏を始める。物語は仲間たちとの友情、それぞれにトラウマを抱えた仲間たちの苦悩、日本兵に弟を殺された心の傷が癒えない米兵ラッセル(シェー・ウィガム)の怒りと悲しみ、闇市でたくましく生きる子供たち…等を並列的に描きながら、やがて音楽を通じて広岡たちとラッセルの間に友情が芽生え、荒んだ心が癒されて行くさまを丹念に描く。だがそんな時、朝鮮動乱が勃発し、兵士たちは再び戦地に狩り出されて行く。…ラストでは泣けた。この映画は、愛するものを奪い、友情も引き裂いて行く愚かしい戦争への静かな怒りに満ちている。それはまさに、現在のイラク戦争をも照射していると言える(ちなみに、エキストラの中には撮影終了後、実際にイラクに派兵された米軍兵もいたそうだ)。ラッセルは言う。「戦争に行く?違う、殺しに行くんだ」…
 阪本監督の演出は気迫に満ちている。出演者たちもそれぞれ好演。バンドのメンバー、池島(オダギリジョー)、平山(松岡俊介)、大野(村上淳)、浅川(MITCH)たち
の演奏シーンも特訓の成果で見事にサマになっている。そして米兵に扮した人たちも素敵。ラッセルにふんしたシェー・ウィガムもいいが、リーダーのジム軍曹を演じたピーター・ムランが素晴らしい存在感を見せる。イギリスの名優で、監督としてもカンヌ映画祭金獅子賞受賞作「マグダレンの祈り」がある、ムランほどの大物が快く参加してくれたというのも、阪本監督の人徳か。ややマイナス点なのは、ヒロイン(らしき)前田亜季にいま一つ存在感がないのと、彼女の歌い方が今風で興ざめな事。ここにいい女優を持って来ておれば採点のもう一つはおマケしても良かった。ともあれ、本年上半期の収穫としておススメである。