g@me (東宝:井坂 聡 監督)
東野圭吾のミステリー(ゲームの名は誘拐)を、「ミスター・ルーキー」という小粋な映画を作った井坂聡監督が映画化。前作でも分かるように、井坂監督は日本映画では数少ない、ウエルメイドな良質エンタティンメントが撮れる新進監督である。本作も、原作も面白かったが、原作を読んだ人でも楽しめる、洒落たセンスの上質なサスペンスに仕上げている。洋画ファンにもお薦めの快作である。
大手広告会社のプランナーとして、自分ではやり手だと自負している男・佐久間(藤木直人)が、突然スポンサーの自動車会社から仕事をキャンセルされ、自尊心を傷つけられ腹立たしく思っている所に、中止を命じた自動車会社の副社長の家から家出してきた女・樹里(仲間由紀恵)と知り合い、副社長への仕返しも含めて、二人で狂言誘拐を企てる。
身代金をどうやって受け取るか…というのは、こうした誘拐サスペンス・ドラマでいつも知恵を絞る部分であり、黒澤明監督の「天国と地獄」、大河原孝夫監督の「誘拐」等では、それぞれうまい!と膝を叩きたくなるくらい巧妙な仕掛けがほどこされていた。本作も、足のつかない携帯電話、インターネット掲示板、無料Eメール…と、最新のハイテク素材を絶妙に利用しており(これは原作も貢献しているが)、なかなかスリリングで面白かった。しかも後半はドンデン返しに次ぐドンデン返しがテンポよく進むし、これで終り…かと思ったら、さらに原作にないドンデン返しがあるので飽きさせない。洒落たラブシーンもあるし、上質の洋画を観ているような満足感を味わった。冒頭、カメラが上空から高層マンションの一室に入り、ある人物を捉えるまでをワンショットで追う、ヒッチコックばりのカメラワークもあり、この導入部だけを見てもおおっと身を乗り出したくなる。よく考えたらちょっと辻褄の合わない所もあるが、観ている間はそんな事を感じさせないほどテンポがいい。笑えるのが、会話で「ガッツ石松のようなダサい刑事」と言った途端にそのガッツ石松が刑事として登場するショットが挿入され、「椎名桔平のようなカッコいい刑事」と言えば本当に椎名桔平の刑事が現れる。無論これは二人の空想の中の画なのだが、ジョークのように見えてこれが実は伏線にもなっている…という日本映画らしからぬウィットに富んだ描写が絶妙である。
秀作とか傑作に類する作品ではない。ただ、“日本映画はダサい、暗い”と言っている洋画ファンに、そうした先入観を覆して「日本映画もやるじゃないの」と言わせる事ができるだけのパワーはある。この映画がフロックだと言わせないよう、他の若手監督も頑張って欲しい。井坂監督、次も頼みます。採点は大マケで。
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