アニマトリックス (ビデオ)    (ワーナー:アンディ・ジョーンズ・他 監督)

 話題の「マトリックス」シリーズで描き切れなかったエピソードを、9編からなる短編アニメーションで表現した、もう一つの「マトリックス」ワールド。劇場では、エピソード1(ファイナル・フライト・オブ・ジ・オシリス)のみ、「ドリーム・キャッチャー」(ワーナー作品)の本編前に上映されたので、観た方もあるだろう。その他の作品は劇場公開されず、ビデオ初見参となる。
 もともと「マトリックス」は、ウォシャウスキー兄弟が「攻殻機動隊」(押井守監督)や「AKIRA」(大友克洋監督)などのジャパニメーションに多大の影響を受けて作った作品であり、そんなわけでエピソードのいくつかはウォシャウスキー兄弟が脚本を書いてはいるが、全体的には日本の気鋭のアニメーター・監督に、基本コンセプトを守る以外はほとんど自由に作らせた、実質ジャパニメーション…とでも言うべき、短編アニメ作品集になっている。「マトリックス」ファンは必見であるが、日本のアニメーションの水準の高さを知らしめる意味でも、その作られた意味は大きいと言える。
 くわしい作品の内容は次のサイトを参照していただきたいが、
 → http://www.walkerplus.com/movie/matrix/act4.html
 この中で注目して欲しいのは、エピソード5「プログラム」で、監督・脚本は私の敬愛する川尻善昭。内容は、なんと!時代劇である。戦国時代らしき舞台で、馬に乗った女武者が黒づくめの敵と一大チャンバラ・バトルを展開する。さすがあの傑作「獣兵衛忍風帖」を作った川尻善昭だけあって、スピーディかつダイナミックな格闘シーンはすごい迫力。9編中一番面白い!。無論「マトリックス」エピソードであるから、すべてはコンピュータ内部の仮想現実であったというオチになっているが、敵の武者を実は密かに愛していたにもかかわらず、殺さざるを得ないヒロインの悲しみが的確に表現された、独立した短編アニメとしても見応えのある作品になっている。その他の作品も、9編中7編が川尻を含め、日本の新進アニメ作家が監督を手掛けている。
 ちなみに、エピソード1も日本のゲームソフト会社が製作した全編CGアニメ「ファイナル・ファンタジー」のアニメ監督でもあるアンディ・ジョーンズが監督したCGアニメであり、これも楽しい出来。これは「マトリックス」の1と2をつなぐエピソードである。またエピソード2と3は「マトリックス」1の序章の位置にあり、人類が何故機械に支配されるようになったかをくわしく描いている。本作を見れば、複雑な「マトリックス」3部作の不明だった部分がある程度見えて来るようにもなっている。
 それにしても…これ観て、川尻善昭はやっぱり凄い作家だと思う(川尻善昭については別項・監督論も参照)。誰か、彼に予算をたっぷり与えて、痛快なアクション・エンタティンメントを作らせてくれるプロデューサーはいないだろうか。