東京ゴッドファーザーズ     (ソニー:今 敏 監督)

 これまで、「パーフェクト・ブルー」「千年女優」という、いずれも優れたアニメーションを監督して高い評価を受け、海外にもその名を知られる今敏が、またも傑作アニメを作り上げた。これは恐らく、アニメとしては本年度の最高作であるばかりでなく、日本映画全体の中でも屈指の傑作だと思う。
 東京の街中で暮らすホームレス3人組が、クリスマスの日にひょんな事から捨て子の赤ん坊を見つけ、その親を捜し求めるうちに騒動に巻き込まれて行く…という物語。笑いあり、涙あり、アクションもあればスリリングなサスペンスもありと、あらゆる娯楽的要素が盛りだくさん。特に、それぞれ心に深い傷を持つ、まったく縁もゆかりもない3人の男女が、行きがかりで一緒に赤ん坊の親を捜すうちに、次第に家族にも似た心の絆を強めて行く…という展開が心をうち、単なるエンタティンメントに終わっていない。この3人、ギャンブルにのめり込み、妻と子を棄てた中年男ギン(声:江守徹)に、おカマのハナ(梅垣義明)、家出した娘ミユキ(岡本綾)という組み合わせが父と母と子のようでもあり、言わば擬似家族を構成しているように見える(実際、ミユキの夢の中ではこの3人は本当の家族なのである)。物語の中には、さまざまな“家族”が登場し、それぞれに悩みを抱え、本当の家族像を模索し、苦闘する姿が描かれ、よく見ればなかなか奥が深い。そう言えば、ホームレス、捨て子という本筋以外にも、在留外国人犯罪者、ホームレス狩りの若者たち、ヤクザ…等が登場し、これはまた現代の日本が抱えるさまざまな病巣をもしたたかに描いた問題作でもあるのである。しかしトータルでは前述のように、スリリングなエンタティンメントとしてうまくまとめており、ラストではギンもミユキもそれぞれ自分の家族の絆を取り戻すであろう事もさりげなく匂わせ、爽やかな余韻を残して映画は終わるのである。
 観た人の間では、エンディングに向けてあまりにも偶然が重なり過ぎる…との不満の声もあるようである。しかしこれは、クリスマスの日に起きた奇跡…と考えれば十分納得できる。現実離れしたファンタジーの世界では、何が起きたって不思議ではない。クリスマスとの関連で言えば、フランク・キャプラの傑作ファンタジー「素晴らしき哉、人生!」をも思い起こせばよい。丁寧に作られ、感動さえさせてくれれば、どんなに都合よく物語が進んだって納得できるのである。題名のゴットファーザーズとは、マフィアにあらず(笑)、ジョン・フォードの秀作「3人の名付親」(原題"Three Godfathers"。3人の悪党が赤ん坊を町まで届ける話)から来ている。テーマやストーリーもこの作品からいろいろとヒントを得ていると思われる。
 デビュー作「パーフェクト・ブルー」はサイコ・スリラー、「千年女優」は戦前戦後を生きた伝説の女優の半生記…と、1作ごとにまったく違うジャンルに挑戦しながら、いずれも成功させた今敏監督は、今やポスト宮崎駿を狙える、アニメ界のみならず、日本映画界のホープであると言えると思う。しかも1作ごとにエンタティンメント度を高めている。大人から子供まで、誰が観ても楽しめ、なお且つ考えさせられる、これは本年ベストを狙えるお薦めの傑作である。