ロッカーズ     (ギャガ・他:陣内 孝則 監督)

 元ロッカーの陣内孝則が、バンドに明け暮れた自らの青春時代を回顧し、原案・監督を担当した自伝的映画。これが初監督作品であるにもかかわらず、実に達者な演出で、ラストはホロリとしてしまう、爽やかな青春映画の佳作に仕上がっていた。
 主人公ジン(中村俊介)は、材木屋の息子でありながら、家業を継がずロックバンドに夢中、仲間を集め、親からは勘当寸前になりながらも、夢に向かって突き進む。途中から、オーディションで募集したタニ(玉木宏)も加わり、さまざまな困難を乗り越えてプロへの登竜門であるライブコンサートで成功を収め、ついに東京に進出することになる。
 私は以前から書いているように、若者たちが夢を求めて仲間を集め、困難にぶつかりながらも夢をあきらめず、熱い友情や周囲の励ましを得て最後に成功を収める…というパターンの作品が大好きである(「シコふんじゃった。」「青春デンデケデケデケ」「ウォーターボーイズ」等々)。この作品もそのパターンを見事に踏んでいる。ところどころベタなギャグが空回りしているシーンもあるが、ラーメンが空を飛んだり(意味が分からなければ映画を観てください(笑))、大杉漣が爆笑弾き語りを披露したり(これは見もの)…等の楽しい場面も多く、全体としては笑い、涙、感動がほど良くブレンドされ、私としては大好きなタイプの作品に仕上がっている。クライマックスのライブシーンも、クレーンを多用し、短いショットをテンポよく繋いだカッティングで初演出とは思えないほど快調。
 だが、ラストはちょっぴり悲しい。東京に進出したもののプロの壁にぶつかり、一旦解散したが、曲折を乗り越え、再結成の矢先、仲間に不幸が訪れる。…これらはすべて実話だそうである。
 楽しい映画にするなら、物語は東京進出が決まった所で終わっていればよい。だが陣内は、大切な仲間を失った事実をどうしてもフィルムに焼き付けたかったのだろう。ジンを演じた中村俊介も好演しているが、タニを演じた玉木宏がとても良い(「ウォーターボーイズ」でも快演していた)。二人の友情が丁寧に描かれ、観終わって泣けた。この辺り、ビートルズの一員であったが有名になる前に急逝したスチュアート・サトクリフとジョン・レノンの友情を描いたイギリス映画の佳作「バックビート」を思い起こさせる。陣内孝則、初監督作品としては立派に合格点である。この勢いで次作にも是非チャレンジして欲しい。