ファム・ファタール    (米:ブライアン・デ・パルマ 監督)

 この所やや低調だったブライアン・デ・パルマ監督の新作。最近はビッグ・バジェットの大作が多かったが、私はデ・パルマ監督の本領はいかがわしさがプンプン臭うB級タッチの作品(例えば「悪魔のシスター」「愛のメモリー」「殺しのドレス」「ミッドナイト・クロス」あたり)にあるとかねがね思っていた。で、本作はそうしたかつてのデ・パルマ作品の魅力が久々に甦った、素敵な快作であった。
 お話は、カンヌ映画祭の会場で、1,000万ドルのダイヤが埋まったビスチェ(装身具)を強奪する所から始まり、裏切ってダイヤを持ち逃げしたヒロイン・ロール(レベッカ・ローミン=ステイモス)が、偶然自分とそっくりな女性と入れ替わり、大使夫人となって悠々自適の生活を送っていたが、やがてかつての強盗仲間の知るところとなり・・・という展開となる。うーん、見ていない人もいるだろうから、これ以上は書けない。とにかくラストはアッと驚きます。
 あのラストには賛否両論(と言うより否定的意見が多い)があるが、私はデ・パルマらしく、実によく考えられたラストだと思う。(これについては、下の方に詳しく書きましたので、映画を見た方のみ、ココ←をクリックしてください)
 ヒッチコック・マニアのデ・パルマらしく、そっくりな二人の入れ替わりは「めまい」(と言うより、「めまい」にオマージュを捧げた自作の「愛のメモリー」の味わいにも近い)、カメラによる覗き見は「裏窓」あたりを思い起こさせ、ニヤリとさせられる。また、「悪魔のシスター」や「キャリー」に使用された、デ・パルマお得意のスブリット・スクリーン(画面分割)が久々に復活しているのも見どころであろう。そういった点もふまえ、前述の初期のデ・パルマ作品が好きな方には絶対のおススメ作品であると言っておこう。
 デ・パルマの見事な復活に、乾杯!       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画を観た方のみ、読んでください。
 ラスト、ロールが橋の上からかつての仲間に川に放り込まれ、川底に沈んだ・・・と思いきや、これがすべては彼女が風呂場で眠っていた間の“夢”だった・・・という展開に、“そんなアホな…”と思う方も多いだろう。実際、短い夢の中で7年もの月日が経つなんて、とか突っ込みたくなるかも知れない。それに、夢から覚めた後、やはり7年後に、彼女が夢で見たのとそっくりなシーンが続くのも普通ではあり得ない。まあ華麗な映像美に幻惑されて、最初はそんな不自然な点を見過ごしてしまうだろう。しかし、やはり考えたらおかしい。
 では、もう一つの可能性はどうだろう。即ち、“橋から突き落とされた後の話の方が、実は彼女が死ぬ直前に見た夢だった”というオチは・・・。これだと最初のとそっくりなシーンが登場するのもうなずける。つまり、デ・パルマは、そういう風にも取れるような、意地悪な演出をワザと試みているのである。つまりは、どちらが夢だったとしても、どうでもいい事なのである。人間の運命というものは、ちょっとした偶然の出来事でガラッと変わってしまうものなのである。
 そう考えると、私はもう一つの可能性も考えてしまう。例えば、イギリス映画「スライディング・ドア」のように、“もしもあの時、ドアの内側に入っておれば”という、ある瞬間から運命が別れ、パラレルに物語が進んで行くタイプの映画である…と考えたらどうだろうか(わが岩井俊二監督の「IFもしも…打ち上げ花火、横から見るか、下から見るか」もそのタイプの作品)。もっと拡大すれば、“もしあなたがこの世にいなければ”というパラレルな世界を垣間見せる天使が登場する、フランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」を思い起こしてもいい。最初の物語では、自分とそっくりな女・リリーの自殺を止めず、自分がリリーと入れ替わったロールが、“夢”から覚めた後、今度はリリーの自殺を止め、「死ぬんじゃない、新しい人生を生きなさい」と諭すシーンは、まさに彼女ロールこそ、リリーにとっての“天使クラレンス”だった事を示していると言えるだろう。また、リリーの命を救う事によって、ロール自身も最初の“夢”よりもずっと幸福な人生を送ることになる。あの“夢”はまさに“運命の別れ道”だったのである。“ファム・ファタール(=運命の女)”という題名の意味は、ここで初めて明らかになるのである。
 もう一つ、デ・パルマらしい悪戯を紹介しておこう。先にも述べたが、この作品はデ・パルマ作品「愛のメモリー」ともいろいろ似たところが多い。“そっくりな二人の入れ替わり”以外にも、“教会”が意味ありげに登場するし、後半はヒロインが仕掛けた“狂言誘拐”が登場する所も同じ。そして、「愛のメモリー」(原題は“Obsession”=妄執)は、当初は「デジャ・ブ」という題名が付けられていた…という事実を知っておればなおの事興味深い。二度目の物語はまさにロールにとっての「デジャ・ブ」=既視感であろうし、街角には「デジャ・ブ」と書かれたポスターが意味ありげに貼られていた所にも注目して欲しい。この映画は二度三度見直す事によって、映画のあちこちに張り巡らされたデ・パルマの巧妙な仕掛けを堪能することができる、そんな素敵な映画なのである。