ドラゴンヘッド    (東宝:飯田 譲治 監督)

 なんなんだ、これは!・・・こんなヒドい映画は久しぶりだぞ。「あずみ」にも「BRU」にも「スパイ・ゾルゲ」にも甘い私だが、さすがにこれには点数を入れる気になれない。今年のワースト作品である。
 突然起きた天変地異により、地下のトンネル内で脱線した新幹線から奇跡的に生き残った若者二人が東京を目指す・・・というのが一応の筋だが、突っ込みどころが満載の珍作としか言いようがない。乗客たちのほとんどが死んだのに、何故か3人の主人公たちだけが無傷なのがまず不思議。手か足を骨折した人くらいは数人はいるはず。あれだけの大事故なのに停電にもならないようで、トンネル内の一部の照明がついているし、都合よく電車の屋根の近くに、人間が通れる通風孔が途中ではずれる事もなく地上につながっている(私はテレビのカナフレックスのCMを思い出して笑ってしまった)。登場する生存者たちは(主人公二人を除いて)ほとんど全員頭がイカれてる。少しくらいはまともな人間はいないのか。脳手術をして恐怖を司る器官を除去(これがドラゴンヘッドの由来らしいが映画の中では全く説明なし)した双子の子供たちが登場するが、ただ気持ち悪いだけ。だいたいそんな手術する余裕なんてあるか。電気は通っていないはずだし…。ヘリから墜落しても主人公の少年は無傷だし(ほとんど不死身(笑))、ラスト近くに登場する恐怖を感じなくなる缶詰なんて、誰が何の目的で作ってたのかも説明なし(そういう状況が来るって誰か予測したのか?)。そしてラストシーン・・・もう書くのも面倒くさくなった。お話にならない。
 ディザスター・ムービーは一時パニック映画ブームの時によく作られていたが、ラストには天変地異も収まり、希望が持てる終わり方が普通であった。こんなやりきれない終わり方は初めてである。東宝の「日本沈没」はその中でも暗い方だが、列島沈没の理由が科学的に説明されていたし、苦難を克服しようとする人物像がきちんと描き込まれていて見ごたえがあった。本作は見終わってもまったくスッキリしない。製作者たちはどういう目的でこれを映画化しようとしたのか。ベストセラー漫画だからといっても、膨大な長さの原作を2時間に収めるには、それだけの戦略と大胆な発想が必要である。単にダイジェストするだけでは面白くなりようがない。観客の共感を得られないエピソードはバッサリカットするくらいの英断が必要であった。原作は手塚治虫文化賞を受賞しているくらいだから駄作ではないはず。ひとえに、原作を再構成する骨太の筆力を持つ脚本家の不在に尽きる(「日本沈没」は脚本橋本忍、監督森谷司郎という一流のメンバーが参加していた)。監督の飯田譲治も「らせん」や「アナザヘヴン」など、どれもイマイチ作品ばかりであり、監督の起用にも問題ありと思う。ウズベキスタン・ロケや樋口真嗣によるSFXは日本映画としては水準以上であるだけに余計残念である。こういう映画を鳴り物入りで宣伝し、無残な結果となって信頼を損なっているようではそれこそ日本映画には“絶望という名の未来”(本作のコピー)しか残らない。関係者一同、猛反省していただきたい。