ハルク    (米:アン・リー 監督)

 台湾出身で、「恋人たちの食卓」他叙情的な作風で知られるアン・リー監督が、なんとアメコミ(マーヴェル・コミック)ヒーローものを演出。前作「グリーン・デスティニー」もアクションだったが、まだあちらには東洋的な諦観が漂っていた。今回はまったくのアメリカナイズ作品。果たしてどんな作品になるのか、ちょっと不安だったのだが…。
 うーん、部分的に、父と子の宿命や諦念も感じられはしたが…、しかし問題なのはSFX部分である。ILMの担当した特撮は確かに凄いが、これがヘリコプターを叩き落す、戦車の砲身を持ってブン回し放り投げる…と、ほとんどスラップスティック・アニメのノリである(ほとんど人が死なない!)。ジャンプするシーンも、いくらパワーを得たからといっても、あれではあまりに荒唐無稽である(数回のジャンプでひと山越えてしまうのである)。特に呆れたのが、父親(ニック・ノルティ)が野良犬をハルク並に改良し、ハルクと闘わせるシーンで、犬の方まで巨大かつグロテスクな容貌になって延々とバトルを繰り広げる。研究所員でもない父親がどうやって犬を改良できたのか、まったく説明がないのもいいかげんだが、その闘いぶりもマンガチックでほとんど東宝特撮怪獣バトル並である。ラストでは父親まで怪物化するなど、悪ノリのコメディかと思ってしまう。これなら、ティム・バートンあたりに撮らせた方が楽しかったかも知れない。だが真面目なアン・リー演出とは残念ながら水と油。コミックを意識したのか、初期のブライアン・デ・パルマ風画面分割もあまり効果が上がっているとは思えない。総じて中途半端。アン・リーの起用は、残念ながら成功とは言い難い。SFXが発達し過ぎて、ちょっとやそっとの特殊効果では観客が驚かなくなった故の今回の行過ぎたSFX…であるなら、何やら“科学の発達が人類を不幸にする”というこの手のSF映画の教訓を地で行ったようで、なんとも皮肉である。