シティ・オブ・ゴッド (ブラジル:フェルナンド・メイレレス 監督)
凄い!傑作である。本年観た映画の中でも、今のところベスト1。間違いなく本年を代表する秀作と言えるだろう。
ブラジルのスラム街を舞台に、'60年代から'80年代にかけての、ギャングになった若者たちの抗争事件を追う。まず凄いのが、冒頭、子供たちが拳銃を簡単にぶっ放し、強盗を働くシーン。この物語が実話に基づいているというのだからなお驚く。そして随所に感じられるのが、深作欣二映画との類似点である。“スラム街”、“若者たちの抗争事件”、それに“手持ちカメラによる荒々しい映像表現”・・・。いずれも深作映画のトレードマークである。“ブラジル版仁義なき戦い”と呼ぶ人もいるが、私はむしろ深作初期の傑作「狼と豚と人間」を思い起こした。あの作品も“スラム街”が舞台である。そして、閉塞状況からの脱出を目指して若者たちがギャングの麻薬を横取りしようとする所から始まる凄まじいバイオレンス描写、躍動する手持ちカメラ…。深作映画から(と言うより日本映画から)あの頃の、画面からはみ出さんばかりのエネルギッシュなパワーが失われて久しいが、奇しくも深作欣二がこの世を去った同じ年、ブラジルからそうした作品がやって来ようとは…。私は久しぶりに劇場で映画を観て興奮した。
無論この映画が素敵なのは、そうした映像表現だけではない。チンピラたちの中から、一人(リトル・ゼ)は次第に凶悪な犯罪者のリーダーとしてのし上がって行き、一人(ブスカベ)はその犯罪を記録として残すカメラの力に興味を抱き、やがてカメラマンとして腕を上げ、このスラムから抜け出して行く。この二人の人生を並行して追いながら、貧困と犯罪が渦巻くブラジルの最底辺で暮らす人たちの怒りと哀しみを映画は見事に炙り出している。抗争の果て、リトル・ゼは敵対する若者たちから狙われ、凄惨な最期を遂げる。その姿を痛切な思いでカメラに収めるブスカベ…。ここには、単純に善と悪と割り切れるものは存在しない。ブスカベだって一歩間違えればギャングの道を歩んだかも知れない。だからブスカベはリトル・ゼの死を哀しみの目で見つめざるを得ないのである。ダイナミックなバイオレンス描写を散りばめながら、人間を、そして社会の矛盾を鋭く描ききった、素晴らしい傑作の誕生である。必見。
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