ホテル・ハイビスカス  (オフィス・シロウズ:中江 裕司 監督)

 ナビイの恋」という傑作を作った中江裕司監督の期待の新作。前作は沖縄民謡を中心とした音楽がふんだんに流れ、ミュージカル映画(シネ・オペレッタと言った方が適切か)の趣があった実に楽しい作品。本作もやはりいろんな音楽がフィーチャーされている(沖縄民謡や、童謡の替え歌がいくつか登場する)が、前作のようなミュージカル色は薄く、家族の絆やふれあいを中心としたヒューマン・コメディの佳作に仕上がっている。
 沖縄のある町はずれにあるホテル(と言っても部屋は1室しかない!)ハイビスカスを舞台に、このホテルを経営する、多民族が入り混じった一家(長男は黒人、長女は父親がアメリカ人)の日常生活を中心に、後半は主人公である元気な小学生・美恵子の冒険を描く。特に美恵子を演じる蔵下穂波(オーディションで3,100人の中から選ばれた)の天真爛漫な演技が楽しい。最初はややキンキン声が耳につくが、慣れて来れば気にならなくなる。物怖じせず、森の精霊を探して米軍基地内にも忍び込んだり、母親がアメリカに行っている間は家事の切り盛りもする。後半は父を探しての一人の冒険旅行となり、ある村で精霊を呼ぶ事の出来る不思議な老人(これが前作でも好演した登川誠仁)と出会ったりする。ラストにも叔母の亡霊(?)と出会ったり…と、全編を通して神秘的な土地に宿る神々や精霊と、少女美恵子とのほのぼのとした触れあいが描かれ、ムードとしてはやはり森の精霊と子供たちとの交流を描いた宮崎駿の「となりのトトロ」にちょっと似ている。中江監督の演出もそうした人なつっこさと、さまざまな経験を経て成長して行く少女の姿を的確に描き、爽やかな余韻を残す作品に仕上げている。前作とはややムードが変わってはいるが、しかし前作と同様、観終わって心が温まり、元気になれる、これもまた中江監督作品らしい素敵なメルヘンの秀作であった。出演は他に前作でも活躍したおばあ・平良とみ、元気な母親に余貴美子、そして前作の村上淳と西田尚美がチラリ特別出演している。