踊る大捜査線- THE MOVIE 2-レインボーブリッジを封鎖せよ!(東宝:本広 克行 監督)

 大ヒットした前作から5年後の続編である。本作も記録的なヒットを続けていると聞く。私はテレビ・シリーズの方は全く見ていないので、前作はどこが面白くてヒットしているのか、見る前はよく分からなかった。で、映画を見て納得した。テレビや映画の刑事ドラマは無数に作られているが、この作品はこれまでの刑事ドラマとはかなり趣が違う。事件そのものより、組織の中で、さまざまな矛盾と闘い、悩みながら主人公が成長して行くドラマになっている。一般のサラリーマン社会と同じく、本店(本庁)に振り回され、上司は上にゴマをすり、管理職になった男(室井)は組織と現場の板挟みに苦悩する。刑事たちは事件そのものより、組織の上層部との闘いに神経をすり減らす。…敵は外より内にいるのである。今回の作品では、本庁からやって来た女性管理官(真矢みき)がむしろ悪役である。犯人の影がなんとなく薄いのもそれで理解できる。
 しかし、前作では副総監誘拐…という事件を中心に物語が展開し、刑事ものとしてもスリリングで見応えがあったが、今回は犯人の動機に少々無理があるうえ、逮捕されるまでの流れももう一つ緊迫感に欠け、出来としては前作に劣る。組織の矛盾を描きたいという主旨は分かるが、連続殺人事件が起きているのだから、こちらの方にももう少し力を入れて欲しかった。登場人物の一人が撃たれるあたりの描写もまだるっこしい。タイトルのレインボーブリッジもあまり生かされていない。建設中の未完成の橋をロケに使用したとの事だが、それなら「マトリックス2」とまでは行かなくとも、カーチェイスくらいは入れて欲しかった。
 …と、いろいろ難点はあるが、反面、映画・アニメ・ファンと言われる本広監督の趣味を反映してか、いろいろと映画ネタが随所に散りばめられ、映画ファンとしては楽しめる所も多い。前作では黒澤作品「天国と地獄」を引用していたが、本作では“カメダ”というキーワードでも分かる通り、「砂の器」が引用されている(ただ、いくら古い映画を知らない観客相手とは言え、わざわざすみれに「あ、砂の器」と口走らせるのは拍子抜けする。前作でも煙突の赤い煙をみて青島が「天国と地獄だ」と叫んでいたのもゲッソリ)。あと、キャリアとノン・キャリアの対立は「新宿鮫」、訓練が暴走する冒頭は「遊びの時間は終わらない」、東京湾の埋立地の警察分署内でのドタバタは「機動警察パトレイバー」、さまざまなアイテムやキャラクターをあちこちに散りばめたお遊びは、本広監督自身の「スペース・トラベラーズ」…と、思いつくだけでもこれだけある。初期の予告編だけに登場したレインボーブリッジ爆破(本編にはない)は多分「機動警察パトレイバー-THE MOVIE2」ではないだろうか。題名も後ろ半分がそっくりだし。
 まあ、こういう辺りのお遊びにどれだけ気が付くか…という楽しみもあると考えれば、本作は十分楽しめる作品と言えるだろう。ただその為には、かなりいろんな映画(アニメも含めて)を観ていないと理解できないという難点もある。私個人は楽しめたが、あまり映画を観ない人にはその辺りは楽しめなかったのではないか。それと、これだけ幅広い観客を集める、わが国では数少ないメガヒット・シリーズになったのだから、オタク的自己満足世界に浸っておらずに、世界にも通用するエンタティンメントの王道を目指してもいいのではないか。そこらにもちょっと不満があるので、採点はやや辛く…