茄子 アンダルシアの夏  (高坂 希太郎 監督)

 宮崎駿監督「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などで作画監督を務めていた高坂希太郎の、初監督アニメ。上映時間はわずか47分しかないが、その分最初から最期まで緊迫感に溢れ、飽きさせない。アンダルシア地方で開催される耐久自転車レースに出場した主人公ペペと、彼を取り巻く友人、元恋人、レースチームの男たちの行動や回想をテンポよくつなぎ、最後にゴールするまでを描く。俯瞰シーンも効果的に活用した絵の動きにムダがない。短い時間ゆえ物語としてはやや掘り下げ足りないが、反面冗長なシーンは少しもなく、ダイナミックな自転車レースをライブで楽しんだような爽快感が残り、後味は悪くない。ヨーロッパの涼しい風が吹き抜けるような映画である。ただゴール間際、絵がオーバーな劇画調になるのは感心しない。いかにも宮崎アニメのテイストが残る人物キャラクターがいい味を出しているだけに、その調子を持続して欲しかった。(…しかしねえ、スタジオジブリ・スタッフだったというだけで、普通だったら相手にされないようなこうした作品を堂々と1本立で公開させてくれるなんて…。昔だったらメイン作品に添え物として併映されるのが関の山だっただろう。他の頑張ってる人たちから見ればなんともうらやましい限りである)
 とは言え、アクション描写もコミカルなサブ・キャラクターの描き方も新人離れしており、優れた脚本を得た時の高坂監督の演出手腕には、十分期待できるものがあると見た。次回作が楽しみな、新人監督の誕生である。