二重スパイ   (韓国:キム・ヒョンジョン 監督)

 韓国映画にはこの所、“北と南の問題”を正面から扱った映画が増えて来ている。現実に直面している政治課題を、それも堂々と北朝鮮を名指しで批判し、それが興行的にもヒットしているのだからうらやましい。わが国でも現実に工作船やら拉致やら、問題は抱えているが、それをエンタティンメントにせよシリアスにせよちゃんと描いたものもなければヒット映画にも出来ない。昨年公開された「宣戦布告」は、原作でははっきり“北朝鮮”が相手であるのに映画では“北東共和国”などと仮名で逃げているし、エンタティンメントとしてまあまあの出来だったのに公開はベタ遅れで、タイムリーな時期だったのに大してヒットしなかった。小説では映画化したら絶対面白い「亡国のイージス」なんかも映画化しようとしない。こんな弱腰では日本映画はますます衰退して行くだけではないか。映画会社の方たち、元気を出して欲しい。
 …といきなり小言から入ったが(笑)、さて、韓国の大人気スター、ハン・ソッキュが主演した本作、「シュリ」に比べるとかなり地味な作りだが、スリリングな展開もあってよくまとまっている。いかにも現実にありそうなストーリーで、北朝鮮から韓国に亡命し、北を捨てたように見せかけておいて、実は南の情報を北に伝える二重スパイの活動とその末路を描く。時代を1980年代に設定しているのは、韓国安全企画部の亡命者に対する凄まじいリンチ描写があるせいだろう。そういう意味では、韓国もかつては諜報活動においては暗い恥ずべき一面があった(例えば金大中誘拐事件)点をオープンにし、併せてそれだけどんな政治の暗部も暴露して構わない自由な国になった事を示しているのかも知れない。ただ、前半のドキュメンタルな展開に比べて、後半は昔からよく見るスパイ映画のパターンになってしまったのはやや残念。あれだけ北に奉仕したのに、なぜ主人公たちが北に帰れないのかもよく分からない。ラストはお定まり(わが「KT」と同じ)のパターン。ここはもっとひねって欲しかったと思う。…それにしても、平和とはつくづくいいものだと思う。朝鮮半島にこういう悲劇が起きない日が到来する事を祈りたいものである。