おばあちゃんの家   (韓国:イ・ジョンヒャン 監督)

 ソウルで働く若い母親が、仕事の為にひと夏、息子のサンウを遠い田舎で一人暮らししている母親(少年にとっては祖母)の所に預かってもらう事にする。ここから始まる、祖母と孫とのつかの間の共同生活を淡々と描き、心に沁みる感動作に仕上がっている。
 少年サンウは、都会から離れて何もない田舎で生活するのがつまらないので、さんざん駄々をこねる。おまけに唯一の楽しみだったゲーム機の電池がなくなり、近くでも売っていないのでますます不機嫌になり、いたずらしたり、我が儘を言って祖母を困らせる。しかしおばあちゃんはこの孫の為に一生懸命望みをかなえてあげようとする。サンウは次第におばあちゃんが好きになって行き、また近所に住む少女とも仲良くなり、やがて町に帰る日、数々の思い出と、人生にとって何か大切なものを得て、この田舎を後にする。・・・・

 祖母を演じたのは、現地でみつけたまったくの素人だそうで、しかし顔に深く刻まれたシワ、90度近く曲がった腰、…にもかかわらずしっかり大地を踏みしめて歩く姿はとても素敵でまさに適役。この山奥のおばあちゃんの家が、本当に何もない、あばら家とでも表現したい粗末な家で、母親をこんな所に住まわせといていいのか…と娘の方に突っ込みたくもなるが、でもこの映画で素晴らしいのは、一人で暮らすおばあちゃんが、この生活に少しも不満を感じておらず、自然と共存し、悠々と余生を送っている姿である(「裸の島」の乙羽信子のように、天秤棒に桶を下げて水を運ぶシーンもある)。私はこの映画を観て、昨年公開された日本映画の秀作「阿弥陀堂だより」を思い出した。山奥で一人暮らしなのに、貧乏を苦にしない飄々とした生き方がよく似ている(予告編では、家の中から下界の山々を眺めるおばあさんの後ろ姿…という「阿弥陀堂だより」とそっくりなシーンもある)。
 ラストでサンウがおばあちゃんに渡す、ささやかなプレゼントがとても感動的。ここで泣けます。この手の映画でよくある、感動をことさら盛り上げるような音楽が全く使われず、淡々とした描写に徹した演出が、観終わった後、余計に爽やかな感動を呼び覚ます。必見である。