ぷりてぃ・ウーマン   (渡邊 孝好 監督)

 素人のおばあちゃんたちが劇団を旗揚げし、成功させた…という実話に基づき作られたコメディ。実際の劇団はなんと26年!も続いたそうである。
(紹介HPは→
http://www.pref.shizuoka.jp/theatre/honou.htm
 映画は実話にヒントを得たフィクションだが、とにかく楽しい、笑える。そして何より、私が名付けた“正しい娯楽映画”のパターン−“チームを寄せ集めて、失敗して凹んで、しかし困難を乗り越えて見事成功する”−が見事に取り入れられている。この手の作品は、私の映画評で何度も取り上げて来たが「シコふんじゃった。」「青春デンデケデケデケ」「がんばっていきまっしょい」「ウォーター・ボーイズ」などがあり、いずれも傑作であった。しかしこれらの作品がいずれも若者が主人公の青春映画であったのに対し、本作はその対極=老人が主人公なのである。これにはうなった。こういう手もあったか…。
 出演者たちも魅力的。主人公でリーダー格が淡路恵子(NHKテレビ「若い季節」のプランタン化粧品社長ですね。この女社長が現役引退したら多分こうなるだろうと思わせる元気なおばあちゃん役を巧演)、集まって来る劇団員たちが風見章子、馬渕晴子、正司照枝、草村礼子(「たそがれ清兵衛」のボケたおばあちゃん!)、イーデス・ハンソン、絵沢萠子(ロマンポルノ「濡れた唇」のヒロイン。もうそんな歳になってたか…)と錚々たる顔ぶれ。これに、都会で脚本家の夢破れて故郷に帰って来た孫娘が西田尚美(「ナビイの恋」でも似た役柄)、その両親が岸部一徳と風吹ジュン、その他益岡徹、市川実日子、佐藤允、すまけい、ミッキー・カーチスと個性的な助演陣にワンシーンのゲスト出演が津川雅彦、山田邦子、秋野太作…と豪華な顔合わせ。
 毎日、地区の集会所に集まり、ただなんとなく暇を持て余していた老人たち。葵(淡路)はそんな空気をなんとか変えたいと思っていた。そんなある日、市の福祉課から、市民サークルの催しで何かやって欲しいと頼まれる。途端にメラメラと燃える葵。故郷に帰っていた孫娘加奈子(西田)の荷物から、ボツになっていたシナリオを見つけ、勝手に印刷して仲間と練習を開始するが、周囲は冷ややかに眺める。市役所も冷淡。アクシデントも起り、上演は中止寸前となるが、そこからのパワーが凄い。仲間たちと市役所に乗り込み交渉、遂に上演に漕ぎつける…。
 この映画が素敵なのは、“人はいくつになっても、決して夢を捨ててはいけない”というテーマがしっかりしている点である。無気力だった老人たちが練習を重ねる度に、どんどん元気になって行き、夢に向かってひたすら突き進む。夢破れて落ち込んでいた加奈子も、その姿を見てもう一度チャレンジする勇気を取り戻して行く。…いよいよクライマックスの上演会。観客たちは、最初はトチリ続けの老人たちを笑っていたが、次第に深い感動を呼び覚まされて行く。芝居のエンディングでは観客も、冷淡だった市役所課員(益岡徹)までも涙ぐんでいる。そして映画を観ている私も涙が溢れて来た(泣いている観客は私以外にも多かった)。…笑えて、泣けて、感動し、そして元気になれる…まさにこれは素敵な“正しい娯楽映画”であった。
 この映画のキャッチフレーズを紹介しておこう。“人はいくつになっても、もの凄い可能性を持っている。人生そうそう捨てたもんじゃない。夢がある限り心にシワなんかできっこないのだ”
そう、夢を追い求める限り、人はいくつになっても元気でいられるのだ。夢を無くしかけている人、定年を迎え、何をして生きて行けばいいか分からない人…そういった人には、是非観ていただきたい、これはそんな素敵な映画なのである。