わたしのグランパ   (東映:東 陽一 監督)

 原作・筒井康隆、監督・東陽一、主演・菅原文太・・・。まったくと言っていいほど、肌が合いそうもない(笑)この3人が組んだ本作。おまけにクセ者・浅野忠信まで加わっている。だがこれが意外に面白かった。
 主人公の少女、珠子(石原さとみ)の祖父(珠子はグランパと呼ぶ)五代謙三(文太)が13年ぶりに刑務所を出所して帰って来た事から起る騒動を通して、祖父と孫娘との交流をコミカルかつファンタスティックに描いた作品。文太が実に適役(原作者も文太をイメージして執筆したそうだ)。今の俳優の中で、普段はおだやかな老人でありながら、突然凄みを効かせる一面も持つ…というキャラクターを演じられる役者は文太以外に見当たらない(健さんは“笑顔がやさしい老人”の役はちょっと無理)。刑務所に入った理由が、ヤクザの組に殴り込んで2人殺した…というのもニンマリさせられる(殴り込みシーンも回想で出てくるが、階段を一気に駆け上がったり、その身のこなしの軽やかさには感服)。こんな、ほとんどヤクザ映画に出て来るような人物が、ごく普通の家庭に帰って来て、孫のお相手をするというミスマッチが、いかにも筒井康隆的で実に楽しい。そしてこのグランパが、イジメや校内暴力がはびこる中学の生徒たちに接近し、やがて生徒たちがグランパに心酔して行くという展開となる。そうしたエピソードを積み重ねながら、次第にグランパが珠子にとってかけがえのない人になって行くプロセスが丁寧に描かれていて好感が持てる。全体的に、現実にはあり得ないおとぎ話のような物語であり、東陽一の演出もその線をわざと狙っている(珠子が空中に浮く…という不思議なシーンがそれを象徴している)。大晦日の夜、グランパが珠子にドレスを着せ、パーティに誘うシーンは祖父と孫と言うより恋人同士のように見えて来る。だが、やがて二人に別れの時がやって来る…。ラストはちょっとホロッとなってしまった。一歩間違えればマンガチックになってしまいかねない物語を爽やかにまとめた東陽一の演出センスが光る、不思議な味わいの好編である。
 男のダンディズムを感じさせる文太も素晴らしいが、本作がデビューとなる新人石原さとみがとてもいい。あどけなさとキュートさと、内面に秘めた芯の強さを併せ持つ難しい役柄を見事にこなしている。今年の新人賞は総ナメする可能性がある。映画界はこういう有望な新人を大事に育てて欲しいものである。