壬生義士伝   (松竹:滝田 洋二郎 監督)

 浅田次郎の原作ものは、いつも“泣かせ”の要素が強い。映画化された「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブレター」「天国までの100マイル」など、いずれも泣かされた。で、今回の原作も泣ける。昨年にはテレビ東京系で、渡辺謙主演による10時間長編ドラマとして放映され、好評を博している。原作は上下2巻ある長編で、これを2時間の映画に仕上げるのは難しいと思われたが、ベテラン中島丈博による脚本は、主人公吉村貫一郎(中井貴一)を中心に要領よくまとめ、滝田洋二郎の演出も最近の作品の中では力が入っていて見応えがあった。
 吉村は、愛する妻子の生活を守る為に脱藩し、新選組に加わり、守銭奴と蔑まれながらも必死で働き、金を故郷に送り続ける。後半は敗色迫る新選組と行動を共にし、最後まで侍らしく戦い、壮絶な死にざまを見せる。前半ではドライな性格のように見せておきながら、実は最も“義”に厚い男であった…という点がポイントであろう。矛盾しているようにも見えるが、彼にとっては妻子を守る事も立派な“義”なのである。藩を捨て、金に執着するエゴイストのようであっても、心の中ではずっとその事に心を痛めており、“侍の大義”と“家族への愛”のはざまで苦悩し続けていた男であったのである。「私は一度藩を裏切った男です。二度も裏切る事は許されない」という彼の言葉がそれを裏付ける。ただ、死に際して家族への思いを延々と述べるシーンはやや冗長で間延びする。ここはもっと短くでもよかった。それを除けば水準を上回る佳作であろう。”幕末の、東北の小藩に在籍する、家族を愛する為に剣で戦う貧乏侍”というコンセプトが「たそがれ清兵衛」と似ているが、どちらもベストセラーとなった原作に基づいており、単なる偶然であって意図したものではないだろう。しかし、“明治の現在から当時を回想する”という構成や「・・・でがんす」というセリフまで似ている為、二番煎じと見られてしまいかねない。その意味で、作品的にやや損をしているのが残念である。斎藤一を演じた佐藤浩市、沖田
総司を演じた堺雅人が好演。ただ三宅裕司は(意外と健闘しているのだが)どうもテレビのバラエティのイメージが強すぎややマイナスではなかったか。