オールド・ルーキー  (ディズニー:ジョン・リー・ハンコック 監督)

 人は誰も夢を抱く。― しかし多くの人は、夢に挑戦しながらも、高いハードルに阻まれたり、さまざまな事情から挫折し、あきらめてしまったりする。…そうして、いつか年月が過ぎ、歳をとると共に夢を忘れてしまうものである。
 しかし、この映画の主人公、ジム・モリスは夢を捨てなかった。35歳という高齢になってメジャー・リーグに挑戦し、遂にその夢をかなえるのである。――これは、実話の映画化である。
 モリスは、小さい時から野球選手になるのが夢だった。しかし父親の度重なる転勤で満足に野球が出来ず、やがて肩を痛めてプロへの道を断念し、今は高校の教師をしながら妻と二人の子供を養って生活している。…それでも夜になると近くの工事現場の金網に向かって黙々とピッチング練習を行っている。―もう自分はメジャーのグラウンドに立てる年齢ではない―。それでも練習を続けているのは、心の中のどこかで夢を捨てきれない思いがあるからなのだろう。
 涙もろい私の涙腺は、この辺りからもう緩みっぱなし。…やがて自分の高校の野球チームの監督をしているうち、モリスは生徒たちにせかされ、試しに投げてみたら、まだ速い球を投げられる事に気付く。モリスの剛速球に驚嘆した生徒たちは“チームが地区大会で優勝したらメジャー・テストを受ける”ことを無理やり約束させる。そして、それまで弱小だったチームは、そこから連戦連勝、ついに優勝してしまい(ウソのような話である。本当に実話だったら凄い!)、モリスは約束通りプロテストを受ける事となる(テストを待つ間、赤ん坊のおムツを取り替えるシーンが微笑ましい)。
 最初は反対していた妻も、やがて賛成に回り、モリスは見事テストに合格する。しかしスタートはマイナー・リーグからであり、安月給で生活は苦しくなる。それでも文句を言わず、温かい目でモリスを励ます妻や、恩師のメジャー・デビューを夢見て声援する生徒たちに支えられ、遂にモリスはあこがれのメジャーのグラウンドに立つ事が出来るのである。― 晴れの舞台(テキサス、アーリントン球場)に、教え子たちや、妻子、そして堅物だった彼の父もやって来て心から祝福するシーンでは、もう私の目は涙また涙の洪水であった。
 これは、“夢をあきらめてはいけない。夢を持ち続け、努力すれば、きっとその夢はかなう”ことを実際に証明した男の、真実の物語である。そしてまた、イチローにしろ松井にしろ、夢を求める男たちをかくも惹きつける、メジャー・リーグの偉大さをもまざまざと思い知ることとなる。(そう言えば、やはり高校の教師から高年齢で大相撲の世界に飛び込み、小結まで登りつめた智の花を思い出した。彼こそ“日本のジム・モリス”であろう)
 これは決して秀作というわけではない。けれども夢を追っている人、夢を忘れかけた人には是非観て欲しい、素敵で心温まる感動の作品である。