黄泉がえり (東宝:塩田 明彦 監督)
死者が次々生き返る…という物語設定から、私はてっきり(毎年この時期恒例の)ゾンビもののようなホラー・ショッカー映画だと思っていた。・・・しかし「感動のファンタジーらしい」という情報と、監督が「どこまでもいこう」や「害虫」などで今注目されている塩田明彦…という事もあって、観てみる気になったのである。
観終わって、感動した。…これは素晴らしいファンタジーの快作であった。
原作は、熊本在住の作家・梶尾真治による同名の小説。原作はSF仕立てで、エイリアンの存在もほのめかしているが、映画はそれらの要素を削ぎ落としてファンタジー色を強く出しており、これが見事に成功している(既存の作品を挙げるなら、大林宣彦監督「異人たちとの夏」や、ケビン・コスナー主演の「フィールド・オブ・ドリームス」にやや近いと言えば納得いただけるだろうか)。
九州・阿蘇の近くで、過去に亡くなった人間が、死んだ当時の姿のままで生まれ育った場所に姿を現わす怪事件が頻発し、調査の為、厚生労働省の調査官・川田平太(草g剛)が派遣される。・・・というのが発端で、物語は数組の黄泉がえりの人たちと、それを迎え入れる近親者(妻や夫、兄弟、恋人)たちの微妙な感情の起伏や波紋を描く。この辺りの演出がなかなかうまい。「阿弥陀堂だより」の北林谷栄さんや、哀川翔、田中邦衛、聾唖女優忍足亜希子などの配役もピッタリだし、山本圭壱(極楽とんぼ)などのお笑いタレントも実に役にハマっている。無論主演の草g剛も好演。これがメジャー初監督とは思えない程、塩田明彦の演出はどっしりとした格調がある。そしてやがてこの現象は、“生きている人の思いが、この世にいない人を黄泉がえらせる”という事が判明してくる。これが微妙な伏線となって、ドラマは平太と、幼馴染の葵(竹内結子)との、悲しくもせつないラブストーリーに繋がって行くのである。未見の方の為にこれ以上は書かないが、とにかくラストは泣けます。人が人を思うという事は、これほどまでに美しく、悲しいものなのだという事が見事に描かれていて、しかもさまざまに張り巡らされた伏線が巧妙に生かされている。これは、ストーリーを知ってもう一度見直すと、なおさら感動出来るだろう(その為か、3度、4度観るリピーターが凄く多いそうで、好評に付き上映期間も延長されている)。黄泉がえった兄と弟が、夕暮れ時、キャッチボールをするシーンは「フィールド・オブ・ドリームス」を思い出し、ここでも泣けた。
日本映画では珍しい、心温まるファンタジー映画の快作である。最近近親者を亡くした人、自分の思いを伝えられなくてもどかしい思いを感じている人には特におススメである(但し、必ずハンカチを持参してください)。
()